### 第88話:圧倒的なスケール
### 第88話:圧倒的なスケール
自動扉が音もなく開き、僕たちを迎え入れたのは、これまでに見たこともないほど広大で近未来的な屋内テニスコートだった。
天井からは均一な光を放つ無数のLEDライトが降り注ぎ、足元には完璧にメンテナンスされたブルーのハードコートがどこまでも続いているような錯覚を覚えさせる。その広さは、僕たちがこれまで練習してきた特設コートや、先日の隣町のスポーツセンターとは比較にならない。
「すげえ……これが、ナショナルトレーニングセンター……」
翔太が思わず声を漏らし、呆然と首を巡らせる。
コートのあちこちでは、すでに全国から集結した選抜メンバーたちがアップを始めていた。その車いすの機動音、ボールを捉える打球音の鋭さは、耳を澄ませるまでもなく、これまでの地方の大会のレベルを遥かに凌駕している。
「いつまで口を空けて突っ立っている気だ。受付を済ませるぞ」
一ノ瀬コーチの冷静な一言で、僕たちはハッと我に返り、慌てて車輪を動かした。
受付を終え、指定されたロッカールームへと向かう通路の途中、すれ違う選手たちの雰囲気に、僕の背筋がピリリと引き締まる。誰もが無駄な私語をせず、その瞳には研ぎ澄まされた刃のような鋭い闘志が宿っていた。
野田さんに調整してもらったマットブラックの車いすのタイヤが、静寂な廊下に規則正しい音を刻む。
身体の芯を貫くような独特の緊張感。しかし、不思議と恐怖はなかった。
あの最初の大会で味わった無力感と涙、そしてそれを乗り越えて掴み取った確かな手応えが、今の僕たちの身体の軸をしっかりと支えている。
「行くぞ、翔太」
「ああ、面白くなってきたじゃねえか!」
ロッカールームの重い扉を開け、僕たちは全国という名の巨大な舞台へと、静かに足を踏み入れた。




