### 第84話:深化する連携
### 第84話:深化する連携
「そこだ、回り込みが遅い!」
一ノ瀬コーチの容赦ない声が、朝の冷気を切り裂くように飛んだ。
隣町のスポーツセンターでの勝利という経験は、確実に僕たちの自信となっていたが、同時に「さらに上へ行くための課題」を浮き彫りにしていた。強豪ペアと渡り合えたのは確かだが、それはあくまでこちらの奇襲や、相手のわずかな動揺を突いた部分が大きかったのも事実だ。
全国の舞台を見据えたとき、今の実力ではまだ安定感が足りない。
コーチがこの日から課したのは、単なるストロークの強化ではなく、「ダブルスにおける完全な連動性」だった。
「翔太、クロスに寄る!」
「任せろ、逆サイドは俺が塞ぐ!」
コーチのラケットから放たれるボールは、予測不能な変化を伴って左右のコーナーへと散らされる。
僕たちは車いすの車輪を限界まで力強く叩き、お互いの背中を信じてコート内を縦横無尽に駆け抜けた。野田さんに調整してもらったマットブラックの車いすは、どんな急旋回や急停止を行ってもブレることなく、僕の意思をダイレクトにサーフェスへと伝える。
パァンッ!
僕が深いロブで相手の体勢を崩し、その隙にネット際へ飛び出した翔太が鮮やかなボレーで仕留める。
言葉を交わさずとも、お互いのタイヤの音や呼吸の気配だけで位置が把握できるほど、僕たちのコンビネーションは研ぎ澄まされてきていた。
「……ふん、少しは形になってきたな」
練習の合間、コーチがポツリと漏らしたその一言に、僕たちは思わず顔を見合わせて小さく息を吐いた。
あの最初の大会で味わった絶望の底から、僕たちは確実に這い上がっている。
最高の相棒とともに、僕たちの車いすは、さらなる高みへ向けてタイヤを唸らせていた。




