### 第82話:勝利のその先へ
### 第82話:勝利のその先へ
「ゲーム・アンド・マッチ、瀬戸・翔太ペア、6-3!」
主審の告げたその声が、静まり返った屋内コートの隅々まで染み渡るように響き渡った。
最後のポイント、相手の焦りから生まれた甘いリターンを、翔太が渾身のスマッシュでコート中央へと叩き込んでから、ほんの数秒間の出来事だった。
「やっ……たぁぁぁーーっ!!」
翔太が声を限りに絶叫し、車いすのハンドリムを狂ったように叩き鳴らす。
私もまた、全身の力が一気に抜け落ちるような感覚の中、握り締めたラケットを掲げ、震える両手で車輪を前へと進めた。
相手ペアの二人――先ほどまで僕たちを見下し、圧倒的な装備と経験の差でねじ伏せようとしていた強豪の選手たちが、信じられないという表情で自分たちのラケットを見つめている。彼らの車いすが発していた圧倒的な威圧感は、もうどこにもなかった。
ガツンッ!!
「やったな、瀬戸……! 俺たち、勝ったんだよな……っ!」
「ああ……勝ったんだ、僕たち……!」
翔太の車いすと激しく衝突したバンパーの衝撃が、これが夢ではないという確かな現実を教えてくれる。
最初の大会で味わった、あのどうしようもない無力感。何もできずにコートの隅で引き裂かれそうになり、ただ悔し涙を流すことしかできなかったあの日の記憶。
あのときから、僕たちの物語は始まった。
アスファルトの手製コートで泥だらけになりながら重ねた基礎反復。
野田さんがミリ単位でアライメントを調整し、魂を込めて蘇らせてくれたマットブラックの車いす。
そして、一ノ瀬コーチが地獄のような特訓で身体の芯に叩き込んでくれた「体幹の軸」と、絶対に折れない戦術眼。
すべては、この瞬間のためにあったのだ。
僕たちは、ただの「初心者」から、本当の意味での「車いすテニスプレイヤー」へと、この青いハードコートの上でようやく生まれ変わることができた。
「おい、いつまで泣きそうな顔をしてやがる」
いつの間にかコートサイドまで歩み寄っていた一ノ瀬コーチが、相変わらずの不愛想な声で僕たちに声をかけた。
しかし、その瞳の奥には、隠しきれない確かな誇りと、熱い光が宿っていた。
「……コーチ。僕たち、やりました!」
「ああ、見てたさ。だが、これで満足するなよ。今日の勝利は、あくまで『スタートライン』に立ったというだけの話だ」
コーチはふっと小さく笑うと、背中を向けて歩き出した。
「荷物をまとめろ。明日からは、さらに厳しいメニューを用意して待っている」
「「はいっ!!」」
僕と翔太は声を揃えて返事をし、お互いに顔を見合わせて力強く頷き合った。
悔し涙を塗り替えた今日の勝利は、僕たちの新しい未来のほんの始まりに過ぎない。
最高のエース、最高の相棒、そして最高の仲間とともに、僕たちの車いすは、さらなる高みへ向けて再び力強く走り出す。




