### 第80話:雪辱の証明
### 第80話:雪辱の証明
「40-0! ゲームポイント!」
審判代わりの部員のコールが、再び屋内コートの空気を震わせた。
完全に主導権を握った僕たちに対し、相手の強豪ペアは焦りの色を隠しきれなくなっていた。特に、先ほどまで余裕の笑みを浮かべていた相手前衛の選手は、自分の足元を見つめたまま、ガチガチに緊張した手つきでラケットのグリップを握り直している。
(いける……! このゲームを絶対にキープする!)
僕は深く息を吸い込み、心拍数を落ち着かせた。
最初の大会で味わった絶望的な敗北。あのとき、何もできずにコートの隅で立ち尽くし、自分たちの無力さに涙を流した記憶が、走馬灯のように脳裏をかすめる。
しかし、あの日の悔しさは、今や確かな技術と自信に生まれ変わっていた。
野田さんがミリ単位でアライメントを調整してくれた、最高の相棒であるマットブラックの車いす。
一ノ瀬コーチが地獄のような特訓で叩き込んでくれた、ブレることのない「体幹の軸」。
そして、隣のコートサイドで同じ志を抱き、泥臭く這い上がってきた相棒・翔太の存在。
すべてが、この一球のためにあった。
「ラスト、最高のやつをブチ込んでやれ、瀬戸!」
翔太の力強い声が背中を押す。
僕は大きくトスを上げ、全身のエネルギーを一つに集中させた。骨盤を立て、腹筋と背筋の軸を完全に固定した状態から、ラケットの芯でボールを捉える。
パァンッ!!!
本日一番の、いや、僕たちのテニス人生の中で最も重く、美しく伸びる打球音がコートを切り裂いた。
放たれたサーブは、相手レシーバーの予測を完全に置き去りにし、サービスコートの角へと突き刺さる。相手後衛が凄まじい執念で車いすを滑らせたが、そのラケットのフレームにかするかすめ、ボールはそのままバックフェンスへと激しくバウンドした。
「ゲーム、瀬戸・翔太ペア!」
試合終了のコールではない。しかし、その瞬間、会場全体の空気が僕たちの圧倒的な進化を認めざるを得ないという重苦しい静寂に包まれた。
「やった……! やったぞ、瀬戸!」
翔太が猛然と車いすを走らせ、僕の車体にガツンとバンパーをぶつけてきた。
お互いの汗だくの拳が空中で強くぶつかり合う。胸の奥からこみ上げてくる熱いものが、目頭をジワリと熱くさせた。
格上の強豪、最新の装備、圧倒的な経験の差――そんなものは関係なかった。
僕たちはあの日の敗北を乗り越え、自分たちの手で、確かに「未来」を切り拓いてみせたのだ。
コートの隅で、一ノ瀬コーチが静かに腕を組みながら、しかし初めてわずかに口元を緩め、誇らしげな笑みを浮かべてこちらを見つめていた。




