### 第79話:サーブの真価
### 第79話:サーブの真価
「15-0!」
僕が放った第2セットのファーストサーブは、相手コートのコーナー深くへと鋭く突き刺さり、レシーバーのラケットをかすめてバックフェンスへと音を立てて転がっていった。
ただ力任せに打ち込んでいた最初の頃のサーブとは違う。一ノ瀬コーチに徹底的に叩き込まれた「体幹の軸」をブラさず、トスの位置からインパクトの瞬間まで、骨盤の底で全身のエネルギーを完全にコントロールしきった一撃だった。
「ぐっ……! またあの軌道かよ!」
相手の後衛がイラ立った声を漏らす。
僕たちの成長は、単なるストロークの精度向上だけにとどまっていなかった。野田さんに最適化してもらったマットブラックの車いすは、サーブを打つ瞬間のわずかな後方への反動すら綺麗に受け止め、次のステップへの動き出しをミリ単位でスムーズにしてくれている。車体がブレないからこそ、打点への迷いが一切生まれないのだ。
「いいぞ、その調子で崩し続けろ!」
サイドラインの外側から、一ノ瀬コーチの短いゲキが飛ぶ。
その声に背中を押されるように、僕は再びボールをトスした。
パァンッ!!
ふたたび放たれた重い打球音。
今度は少し軌道を変え、相手のフォア側へと逃げるようなスライス回転をかけたサーブだ。相手の前衛が慌ててポーチに出ようと車いすを漕ぐが、その動きの先を、ネット際に陣取った翔太が鋭い視線で見据えていた。
「そこは読んどるわ……っ!」
翔太の車体が爆発的な初速で滑り込み、相手の甘くなったリターンを完璧なタイミングで捕らえた。
バチンッ!!
翔太のラケットから放たれた強烈なボレーが、相手ペアの間のがら空きとなったスペースへと鮮やかに突き刺さる。
「30-0!」
「よっしゃあ! 完璧に崩したぜ!」
翔太が小さくガッツポーズを作り、振り返って僕に満面の笑みを向けた。
お互いの背中を預け合い、相手の動きを予測し、自分たちの技術を信じ抜く。最初の大会で味わった孤独と絶望は、いまや完全に二人の強固な絆へと姿を変えていた。
格上の強豪ペア。最新のカーボンフレーム。圧倒的な試合経験。
そんなものに恐れをなしていた自分たちは、もうどこにもいない。僕たちは今、自分たちの足で、自分たちの相棒とともに、この青いハードコートの主導権を確実に掌握しつつあった。




