### 第78話:雪辱の予感
### 第78話:雪辱の予感
「ゲーム、瀬戸・翔太ペア!」
そのコールが響いた瞬間、青いハードコートを包んでいた空気が完全に一変した。
先ほどまで僕たちを見下すような視線を向けていた相手ペアの顔に、明らかな動揺と焦りが広がっている。格下の素人集団だと侮っていた相手から、まさか自分たちのサーブをブレークされるなどとは思ってもみなかったのだろう。
「おい、どうしたんだよ、しっかりしろ!」
相手チームの監督がベンチから厳しい声を飛ばす。
しかし、一度狂い始めた歯車は、そう簡単には噛み合わない。僕たちが掴み取った1ゲームは、単なるラッキーによるものではなく、これまでの過酷な特訓と泥臭い積み重ねがもたらした必然の成果だったからだ。
「よしっ……! 見たか、あの野郎どもの顔!」
翔太が興奮を抑えきれない様子で、車いすのハンドリムを力強く叩く。その額には玉のような汗が光り、瞳には燃え盛るような闘志が宿っていた。
「ああ。でも、ここからが本当の勝負だ。向いも本気で立て直してくる」
僕は自分の足元に視線を落とした。
野田さんが完璧にアライメントを調整してくれたマットブラックの車いすは、激しいラリーの連続にもかかわらず、フレームの歪みや違和感を一切感じさせない。まるで自分の身体の一部、いや、それ以上の機動力となって僕の意思を支え続けてくれている。
そして、一ノ瀬コーチに徹底的に叩き込まれた「体幹の軸」。
急停止も、予測不能なフェイントも、骨盤を立てて腹筋と背筋で重心を支えるこのフォームがあれば、どんな強烈なショットにもブレることなく対応できる。
「チェンジコート!」
主審の声に合わせて、僕たちは車体を反転させ、コートの陣地を入れ替えた。
すれ違う瞬間、相手ペアの一人が鋭い睨みを利かせてきたが、僕たちはそれに怯むどころか、真っ直ぐに視線を和らぎ返した。
「第2セット、サーブは瀬戸だ。流れを渡すなよ、瀬戸!」
「分かってる、任せてくれ」
ベースラインの後方に車いすを滑らせ、ボールを地面に数回弾ませて呼吸を整える。
あの最初の大会で味わった絶望的な敗北。何もできずにコートの隅で引き裂かれそうになったあの日の無力感が、今の僕の中では、確かな自信と勝利への渇望へと完全に生まれ変わっていた。
トスを上げ、ラケットを振り抜く。
放たれたボールは美しくも鋭い軌道を描き、相手コートの奥深くへと突き進んでいった。




