### 第76話:噛み合う歯車
### 第76話:噛み合う歯車
「15-30!」
再びの得点コールが、青いハードコートの空気をピリリと引き締めた。
先ほどのラリーで相手のサーブ軌道を見切った僕のレシーブが、相手ペアの意表を突き、見事にセンター深くへと突き刺さったのだ。最新のカーボンフレームを誇る強豪ペアの顔に、先ほどまでの余裕綽々な笑みは消え失せ、代わりに険しい警戒の色が浮かんでいる。
「おい、あの二人……さっきまでと動きが全然違わないか?」
「焦るな、ただのまぐれだ。次の球で崩せばいい」
相手前衛が後衛のパートナーに声をかけ、ラケットを構える位置をわずかに修正する動きが見て取れる。
そのわずかな動揺を見逃さなかったのは、隣のコートサイドで目を光らせる翔太だった。
「瀬戸、次の配球は絶対にあいつらのバック側に寄る! 俺が前でプレッシャーをかけるから、思い切り叩き込め!」
翔太の声に、僕は力強く頷いた。
最初の頃の僕たちは、自分のことで手一杯になり、コート上で孤立していた。お互いの位置を確認する余裕すらなかったあの最初の大会に比べれば、今の僕たちは一つの巨大な組織のように、見事に歯車が噛み合い始めている。
相手のサーブが放たれる。
予想通り、僕たちの警戒を崩そうと、今度はフォアの浅い位置へと鋭いスライスボールが送られてきた。急減速を強いられるいやらしい配球だ。
(だが――!)
一ノ瀬コーチに叩き込まれた「急減速時の体幹の固定」が、無意識の領域まで浸透している。
僕はタイヤを巧みにロックさせ、上半身が前に突っ込むのを腹筋と背筋の軸で完璧に抑え込んだ。野田さんに調整してもらった相棒の車体は、急停止の衝撃を綺麗に逃がし、寸分のブレも生じさせない。
パァンッ!!
完璧なバランスで放たれた僕のストロークは、低い弾道を描きながら相手コートのサイドライン際を鮮やかに切り裂いた。
相手後衛が慌てて車いすを滑らせるが、その予測すら読んでいた翔太が、ネット際に素早く詰め寄って鋭いボレーの構えを見せる。
「もらった……っ!」
翔太のラケットから放たれたボールが、相手の虚をつくようにガラ空きのスペースへと吸い込まれていった。
「15-40! ブレークポイント!」
会場の空気がどよめく。
格上の強豪ペアから、僕たちが初めてゲームを奪い取るチャンス――その瞬間が、いま、目の前に訪れていた。




