### 第75話:反撃の予兆
### 第75話:反撃の予兆
「第2ゲーム、相手のサーブで再開する!」
審判代わりの相手チームの部員の声が、広大な屋内コートに響き渡った。
スコアはすでに0-1。圧倒的なスピードと戦術の差を見せつけられ、第1ゲームを一方的に奪われた僕たちだったが、一ノ瀬コーチの鋭い指摘によって、ただ怯えていた視界が徐々にクリアになっていた。
相手サーバーがトスを上げる。
先ほどまでの圧倒的な威圧感に飲まれるのではなく、僕たちはしっかりと相手の肘の角度、手首の返し、そして車体の微細な向きに視線を固定していた。
(来る――外へ逃げるスライス回転のサーブだ!)
パァンッ!
乾いた打球音とともに放たれたボールは、予想通り僕のフォア側へと鋭く逃げるように曲がりながらバウンドした。
しかし、もう驚きはない。僕は予測していた通りの最短距離へ右手のハンドリムを強く叩き込み、ピタリと車体を静止させた。野田さんに調整してもらったマットブラックの車いすは、僕の意思に寸分の狂いもなく追従し、無駄なブレを一切起こさない。
「――そこだ!」
骨盤をしっかりと立て、腹筋と背筋の軸を完全に固定する。上半身のバネを最大限に引き絞り、僕はラケットの芯でその重いボールを捉えた。
パァンッ!!
先ほどまでの受け身のショットとは比較にならない、重く鋭い軌道を描いたストロークが、相手の意表を突くコースへと突き進む。
相手前衛の選手が慌てて反応しようとしたが、ボールはわずかにそのラケットのフレームを掠め、バックフェンスへと激しく突き刺さった。
「15-15!」
「よしっ……!」
コートの隅から、翔太の力強い声が飛んだ。
初めて相手から奪い取った得点。それはただのまぐれではなく、僕たちがこれまで積み上げてきた基礎と、二人が共有した戦術の成果だった。
「調子に乗るなよ、ルーキー!」
相手ペアの表情に、わずかな焦りと警戒の色が浮かび上がる。
彼らの余裕が崩れ始めたその瞬間を見逃さず、僕たちは次の一球へと車輪を向けた。あの最初の大会で味わった絶望を塗り替えるための反撃は、今、まさにここから始まったのだ。




