### 第71話:対外試合の打診
### 第71話:対外試合の打診
夕闇が完全に特設コートを包み込み、街灯の白い光がアスファルトのサーフェスをぼんやりと照らし出す頃、僕たちのその日の特訓はようやく終わりを迎えた。
ラケットをバッグにしまい、息を整えている僕たちの前に、一ノ瀬コーチが腕を組んだまま静かに歩み寄ってくる。息一つ乱していないその姿は、相変わらず鉄面皮で何を考えているのか読み取りにくい。
「そこまでだ。……ふむ、動きの質は最初に比べれば見違えるほどマシになったな」
コーチの口から出た「マシになった」という言葉は、彼なりの最大の賛辞に近いものだった。
隣で汗を拭っていた翔太が、思わずといった様子で顔を輝かせる。
「マジすか! じゃあ、そろそろ俺たちも、実戦でどれくらいやれるか試す機会とか……」
「いいだろう。調子に乗るなよ、とは言いたいところだが、いつまでもこの特設コートの壁打ちと俺の相手だけで終わるわけにはいかんからな」
コーチはふっと片眉を上げ、確信犯的な笑みを浮かべた。その一言に、僕と翔太は思わず動きを止める。
「実はな、隣町の総合スポーツセンターを拠点に活動しているジュニアの車いすテニスチームから、練習試合の打診が来ている」
「れ、練習試合……!?」
翔太が声を裏返させ、僕もまた思わず一歩、車いすを前へ進めていた。
自分たちの部活を立ち上げ、コートをアスファルトで整備し、車体を野田さんに最適化してもらい、基礎から体幹を叩き込んできたすべては、この「外の世界」で戦うためだったのだ。あの最初の大会で味わった、何もできずに完敗した悪夢のような記憶を、自分たちの手で塗り替えるための機会が、ようやく巡ってきたのだ。
「相手は当然、ちゃんとした競技用車いすを操り、試合経験も豊富な連中だ。お前たちのような初心者の集まりがどれだけ通用するか、正直、最初のうちはボロカスにやられる可能性の方が高い」
コーチの言葉は相変わらず冷徹だったが、その瞳の奥には、僕たちが挑戦することを待ち望んでいたような、熱い光が宿っていた。
「それでも、行くか?」
迷う理由はどこにもなかった。
あのとき流した悔し涙を、無力感に打ちひしがれた自分を、僕たちはもう二度と繰り返さない。基礎を固め、相棒を整え、泥臭く積み上げてきた日々が本物だったのかどうかを証明する場所が、目の前にある。
「行きます! 絶対に、ビビらせてやりましょうぜ!」
翔太が力強く拳を握りしめ、僕もそれに強く頷いた。
「よろしくお願いします、コーチ!」
僕たちの返事を聞いた一ノ瀬コーチは、満足げに深く頷いた。
「いい返事だ。……来週の土曜日、向こうのコートへ乗り込む。それまでに、今日の課題を完璧に体に叩き込んでおけ」
特設コートの街灯の下、僕たちの胸の内で、新たな戦いに向けた闘志が静かに、しかし激しく燃え上がり始めていた。




