### 第68話:翔太の進化
### 第68話:翔太の進化
僕の打球の伸びに引っ張られるように、隣のコートで基礎反復に励んでいた翔太の動きにも、明らかな変化が現れ始めていた。
「くっそ、瀬戸ばっかりいい当たりしやがって……! 俺だって!」
翔太は大きく息を吐き出しながらも、コーチに指摘された「急減速時の体幹の固定」をしっかりと意識していた。これまでは勢いだけで車いすを止め、上半身が前に突っ込んでいたため、ボールを打つ瞬間に打点がズレていたのだ。
しかし、しっかりと骨盤で重心を受け止め、車輪を巧みに操るようになってから、翔太のストロークも驚くほど安定感を増していた。
パチンッ!
力任せではない、体幹のバネを使った鋭い打球音がコートに響く。
ボールはネットスレスレを通り抜け、狙いすましたように相手コートのコーナーへと深く突き刺さった。
「――ほう。今のスイングは悪くないな、翔太」
一ノ瀬コーチが珍しく声をかけると、翔太は思わずその場でガッツポーズを作りかけたが、すぐに慌てて車いすのハンドリムを握り直した。
「あ、ありがとうございます……! まだまだ重心がブレる瞬間がありますけど!」
「自分で気づけているなら上等だ。お前たちのその『変化』が、次の大会でどう化けるか楽しみだな」
コーチの不敵な笑みに、僕と翔太は顔を見合わせた。
最初の大会で味わった圧倒的な敗北と、無力感。あのとき流した悔し涙は、確実に僕たちをここまで押し上げてくれていた。身体の軸を鍛え、相棒である車体を整え、そして二人のコンビネーションも着実に形になってきている。
「よし、もう一本いくぞ、翔太!」
「おう! 次は絶対にお前をビビらせるような球打ってやるよ!」
特設コートに再び響き渡るボールの音は、あの頃よりもずっと力強く、未来へ向かって弾んでいた。




