### 第66話:最適化された相棒
### 第66話:最適化された相棒
野田さんに調整してもらったマットブラックの車いすにそっと身体を預け、恐る恐るハンドリムに手をかけた。
「……っ!」
思わず声が漏れた。
ほんの少し前まで、漕ぐたびに右肩や腕へ不自然にかかっていた重みやブレが、嘘のように消え失せている。タイヤが地面を捉える感覚が驚くほど滑らかで、わずかな力でスッと車体が前に押し出される。まるで、自分の身体の一部がさらに拡張されたかのような一体感だった。
「どうだ? これなら余計な力まかせの漕ぎ方をしなくて済むはずだ」
野田さんが満足そうに腕を組みながら笑う。
「すごい……! タイヤが勝手に進むみたいです!」
「ははっ、大げさな。お前が無理な乗り方をして車体に負担をかけてたから、車体も泣いてたのさ。道具を労わることも、アスリートの仕事のうちだぞ」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
最初の大会での挫折、自分一人で焦って体を壊しかけたこと、そして基礎からやり直すと決意した日々――そのすべてが、この最適化された相棒と共にある。人間の身体は一ノ瀬コーチに鍛えられ、その足元を支える車体は野田さんの手で完璧に整えられた。
準備は、もう整っている。
「ありがとうございます、野田さん! これなら、絶対にやれる気がします!」
「おう、派手にやってこい!」
工場のシャッターを出た僕の背中を、夕日が力強く押してくれていた。




