### 第63話:隠された限界
### 第63話:隠された限界
「今日はそこまでだ」
一ノ瀬コーチの低い声が、夕暮れ時の特設コートに響いた。
右肩を押さえて動きを止めた僕をじっと見据えたあと、コーチはため息をつくように視線を外す。
「基礎を叩き込むのは大事だが、体を壊しては元も子もない。今日の練習は終わりだ、さっさと引き上げろ」
「コーチ、まだ……」
「まだ、じゃない。自分の体をコントロールできない奴に、車いすを操る資格はない」
容赦ない言葉だったが、そこに反論することはできなかった。
翔太が心配そうに僕の車いすのグリップに手を添え、「ほら、帰るぞ。野田さんのところにも寄っていこうぜ」と促してくれる。その優しさが、かえって自分のふがいなさを際立たせているようで胸が痛んだ。
部活を立ち上げ、練習環境を自分たちの手で整え、ようやく基礎技術の習得へと踏み出した矢先だった。
最初の大会での挫折――あのとき味わった「無力感」を塗り替えたい一心で、自分の限界を無視して走り続けてしまった結果がこれだ。強くなりたいという焦りが、かえって前進を妨げる壁になっていた。
夕日に染まるアスファルトのコートを振り返りながら、僕は自分の無さと、乗り越えなければならない現実の重さを痛感していた。




