### 第62話:痛みの代償
### 第62話:痛みの代償
「……くっ」
激しいストロークの反復練習の最中、右肩に走った鋭い痛みに、僕は思わずラケットを取り落としそうになった。
アスファルトのサーフェスが整い、コーチの指導のもとで正しい体幹の使い方を意識し始めたとはいえ、急激に負荷を上げた代償は確実に体に蓄積していた。事故以来、酷使し続けてきた右肩の関節が、悲鳴を上げ始めている。
「どうした、瀬戸。動きが止まったぞ」
一ノ瀬コーチが鋭い視線をこちらに向ける。
僕は慌てて左手でラケットを立て直し、「なんでもありません!」と首を振った。せっかく翔太も一緒に基礎からやり直すと決意し、部活としてようやく前に進み始めたところだ。ここで肩の痛みなんて言い出したら、また練習から外されてしまう。
そんな僕の様子を察してか、翔太がすっと近づいてきて、心配そうな目を向けた。
「おい、瀬戸……お前、また右肩か?」
「だから、平気だって……」
「平気な顔してねぇよ。顔色真っ青だぞ」
翔太の言葉に、僕は返す言葉を失う。
最初の大会で味わった挫折を乗り越えるため、基礎技術の習得に焦るあまり、自分の体の限界を無視し始めていたのは自分自身だった。強くなりたいという気持ちが空回りし、かえってチームの足並みを乱すことになりかねない。
――このままじゃ、本当に大事なときに戦えなくなる。
僕は自分の意志とは裏腹に震える右肩を押さえ、苦い現実を突きつけられる思いだった。




