### 第6話:灰色の廊下
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### 第6話:灰色の廊下
退院の翌日、僕は新しい制服に身を包み、松葉杖をついて高校の門をくぐった。
かつてはサッカー部のエースとして、この正門を駆け抜けていた。あの頃の僕は、足の痛みや疲労こそがあの競技の勲章だと思っていたし、明日が突然途切れることなど微塵も疑っていなかった。
だが、今の僕の足は、制服のズボンの中でただの重荷としてぶら下がっている。
校庭の脇を通り過ぎるとき、サッカー部員たちがボールを蹴り合う音が聞こえた。乾いたトラップ音、仲間を呼ぶ声、そしてシュートの余韻。
――反射的に、足を止めそうになった。
けれど、僕はすぐに前を向く。
周囲の視線が痛かった。「事故に遭った可哀そうな先輩」「サッカーができなくなった元エース」。そんな無言の同情や、腫れ物に触れるような生徒たちの横顔が、廊下のあちこちに張り付いているように感じられた。同情されるたびに、胸の奥が冷たく締め付けられる。
(見てろよ)
心の中で、僕は呟いた。
(僕はもう、あの日の僕じゃない)
教室に入ると、担任の教師が心配そうな顔で声をかけてきた。
「瀬戸、無理はするなよ。体育の授業はしばらく見学でいいからな」
「……ありがとうございます。でも、大丈夫です」
当たり障りのない返事をして自分の席に座る。窓の外はどこまでも高く、青かった。
放課後、僕が向かったのは部活動のグラウンドではない。
校舎の裏手、かつて用具置き場として使われていた、誰も寄り付かないひび割れたアスファルトのスペースだった。
トランクから下ろした競技用車いすを組み立てる。金属の冷たいフレームが夕日に反射して光る。病院で一ノ瀬にしごかれた日々が、鮮烈に蘇ってきた。
まだ部員もいない。専用のコートすらない。
けれど、この冷たい金属の塊に身を委ね、ハンドリムに手をかけたとき、僕の胸を満たしたのは絶望ではなく、奇妙なほどの静かな高揚感だった。
誰に期待されなくてもいい。同情の目を向けられてもいい。
僕は、この車輪と共に、もう一度自分の世界を切り拓く。
強くハンドリムを叩く。
キィッ、とアスファルトを削る音が夕暮れの空に響き渡った。




