### 第59話:翔太の焦り
### 第59話:翔太の焦り
基礎フォームの修得に没頭する僕の隣で、最近の翔太はどこか様子がおかしかった。
普段なら「見てくれよ、今のショット!」と大声で騒ぐはずが、ここ数日は黙々と球出しをこなしながら、時折自分のラケットを見つめては険しい顔をしている。
「……翔太、どうかしたのか?」
休憩のペットボトルを差し出しながら声をかけると、翔太はバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「いや、さっきの瀬戸のストローク見てたらさ……俺の打ち方、完全に我流のままだなって思ってさ。お前がどんどん基礎を固めていく一方で、俺はなんとなく打ち返してるだけなんじゃないかって」
翔太の言葉に、僕はハッとした。
部活を立ち上げ、コートを改修し、一緒に這い上がってきた相棒。けれど、一ノ瀬コーチの厳しい指導を受けているのは主に僕であり、翔太はどちらかといえばサポートに回ることが多かったのだ。
「そんなことないさ。翔太がコートを作ってくれなかったら、俺は今こうして練習すらできてないんだから」
「分かってるよ。でもさ、最初の大会で味わった悔しさを晴らすためには、俺もただの『練習相手』じゃ物足りないんだよ。俺だって、もっと強くなりたい」
その瞳に宿る熱い光を見て、僕は胸が熱くなった。
一人で強くなっているわけじゃない。僕たち二人で、この部活で這い上がってきたんだ。
「だったら、コーチに頼み込もうぜ。翔太も一緒に、基礎から徹底的に叩き込んでもらおう」
僕の提案に、翔太は目を見張り、それから力強く頷いた。
「おう! やってやろうじゃねえか!」




