### 第45話:限界の向こう側
### 第45話:限界の向こう側
ラケットの先端が、地面スレスレの軌道を描いてボールをすくい上げた。
カキィンッ、と乾いた音がコートに響き渡る。僕が死に物狂いで放ったショットは、一ノ瀬の頭上を抜ける絶妙なロブとなって、相手コートのベースライン深くへと落ちた。
「……っ!」
さすがの一ノ瀬も、この予測外の返球には追いつけない。ボールはそのままワンバウンドしてフェンスに激突した。
息ができないほどの激しい動悸と、右肩から腕にかけて走る焼けるような痛みが全身を駆け抜ける。僕はハンドルリムに突っ伏すようにして、荒い息を繰り返した。
車いすのタイヤの脇で、自分の汗がアスファルトの地面にポタリと落ちる。
「……ほう」
コートの反対側から、一ノ瀬がゆっくりと歩み寄ってきた。その表情には、先ほどまでの冷徹さではなく、確かな驚きと認めざるを得ない光が宿っている。
「まさか、あの体勢からあんなロブを上げてくるとはな。……お前の執念、舐めていたようだな、瀬戸」
顔を上げると、フェンスの外で翔太が両手を突き上げて歓声をあげていた。
事故直後の病室で絶望に暮れていた僕が、今、このプロのコーチを本気で唸らせる一打を放った。それは奇跡なんかじゃない。泥臭く、痛みに耐えながら積み上げてきた現実の成果だった。
だが、まだ終わらない。第1巻の終着点へ向けて、一ノ瀬がさらに厳しい、しかし温かな笑みを浮かべる。
「立て、瀬戸。勝負はまだ1ポイント先だ」




