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### 第44話:一歩の重み
### 第44話:一歩の重み
一ノ瀬の重いエッグボールを返しきった余韻は、ほんの一瞬でかき消された。
跳ね返した球の軌道がわずかに甘かったことを見逃す一ノ瀬ではない。
「甘い!」
一喝と共に、一ノ瀬の体が一気にネット際へと詰まる。放たれたのは、僕の逆をつく鋭いアングルショットだった。
どれだけ車体のバランスが良くなろうとも、物理的な距離と反応のコンマ数秒の遅れがそのまま勝敗を分ける。
「届く……!」
僕は新しいフレームの性能を信じ、ありったけの力を込めてハンドリムを漕ぎ出した。
タイヤが地面を強く噛み、体が宙に浮くような感覚と共にボールの落下地点へと滑り込む。しかし、激しい負荷にさらされた右肩の筋肉が、ピキリと鋭い痛みを訴えた。
――まだだ、まだ動くはずだ……!
事故直後、自分の足が二度と動かないと宣告された病室の天井。あの絶望の底に比べれば、筋肉の痛みなど心地よい生きている証拠にすぎない。
僕は歯を食いしばり、ラケットの面を無理やりボールの下へと滑り込ませた。




