### 第43話:反撃の予兆
### 第43話:反撃の予兆
一ノ瀬の足元を鋭く抉ったクロスショット。それは、単なるまぐれの一打ではなかった。
新しい車いすの機動性と僕の身体の軸が噛み合った瞬間、これまでの練習では届かなかった領域へと、確実に手が届き始めていた。
「……面白い」
一ノ瀬はボールを拾い上げると、再びベースラインの奥へと下がった。その瞳には、先ほどまでの冷徹な評価とは違う、危険な光が宿っている。
「今の1本で、ようやくスタートラインに立った気か? 勘違いするなよ、瀬戸。ここからが本当の地獄だ」
言葉が終わると同時に、一ノ瀬のサーブが放たれた。
先ほどまでとは比べ物にならないほどの重い回転がかかった、いわゆる「エッグボール」。バウンドした後に急激に跳ね上がり、僕の顔の高さへと迫ってくる。
「っ……!」
予測を超えた軌道に、心臓が跳ねる。
しかし、身体はすでに反射的に動いていた。新しく調整されたバックレストに背中を預け、体幹の力を一気に車体のハンドリムへと伝える。
ガキンッ!
強烈な衝撃がラケット越しに腕を伝わってきたが、フレームはびくともしない。野田が施した頑丈な補強と、自分のなかに芽生えた軸のブレなさが、その重い一打をしっかりと受け止めていた。
「返すぞ……!」
僕は歯を食いしばり、そのまま力任せではなく、緻密な手首の角度でボールを相手コート深くへと押し返した。
フェンスの外で、翔太が「よっしゃあ!」と声を張り上げるのが聞こえる。




