### 第42話:感覚の同調
### 第42話:感覚の同調
呼吸を整え、再び一ノ瀬の構えに視線を合わせる。
焦燥感を無理やり押し込め、脳裏で自分の重心とマットブラックのフレームが描くラインをイメージした。下半身の感覚がないのなら、上半身全体を一つのバネとして捉えればいい。野田がチューニングしてくれたシートは、そのブレを最小限に抑えるためにあるのだから。
「――いくぞ」
一ノ瀬の腕がしなり、ボールが放たれた。
先ほどと同じ、いや、さらに鋭く曲がるスライス回転のショット。しかし、今の僕にはその軌道がスローモーションのようにクリアに見えていた。
ガツン、とハンドリムを力強く叩き込む。
車体が地面を噛む感触が、直接背筋へと伝わってくる。無駄な遊びが削ぎ落とされたフレームは、僕の踏み出しに一瞬の遅れもなく追従した。
「――っ!」
車体の向きが完璧に定まり、ラケットのスイートスポットがボールを正確に捉える。
乾いた快音がコートに響き渡り、打球は一ノ瀬の足元を鋭く抉るようにクロスへと突き刺さった。
一ノ瀬は一歩も動けず、足元をかすめていくボールを目で追った。
「……ほう」
一ノ瀬の口元が、わずかに、しかし確実に吊り上がる。
「やっと、その相棒の扱い方が体に馴染んできたようだな」
胸の奥で、熱い達成感が弾けた。
事故直後の絶望から這い上がり、車いす生活という現実を受け入れ、一歩ずつ積み上げてきた日々のすべてが、今この一打に結実していた。




