### 第36話:調整の代償
### 第36話:調整の代償
工房の作業台の上で、僕の競技用車いすは無惨にもバラバラに分解されていた。
フレームの溶接だけでなく、野田の提案によってシートの角度やバックレストの高さまで、細かく見直されることになったのだ。
「お前の体幹の弱さをカバーするためだ。少しシートを後ろに倒し、ホールド感を強める」
一ノ瀬が手際よくレンチを動かす野田の手元を覗き込みながら、淡々と言い放つ。
「そんなに変えちゃって、今までと感覚が変わっちゃいませんか?」
僕は不安になりながら尋ねた。これまで必死に体に叩き込んできた操作感が狂ってしまうのではないかという恐れがあった。
「変わるに決まっているだろう」
一ノ瀬は冷たく言い捨てる。
「だが、お前のこれまでのフォームは、動きのロスが多すぎる。新しい機材、新しいポジションに自分の体を強制適応させることこそが、いまのお前に必要なリハビリの続きだ」
――リハビリの続き。
その言葉に、僕はハッとした。
病院のベッドの上で失意に暮れていた日々。リハビリ室の平行棒にしがみついていたあの頃。僕の戦いは、あの場所からずっと地続きで続いていたのだ。ただ歩くためではなく、この車いすの上で自由に生きるためのリハビリが。
「わかりました……やってみます」
僕は覚悟を決め、生まれ変わろうとしている相棒を見つめ直した。
僕の体も機材も、強制的な進化の時を迎えようとしていた。




