### 第34話:プロの工房
### 第34話:プロの工房
指定された住所を頼りに、僕は日常用の車いすで市街地の外れにあるスポーツ用品店へと足を運んだ。
ガラス張りのモダンな店舗の奥には、専用のメンテナンス工房が併設されており、店内にはピカピカに磨き上げられた競技用車いすが何台も並んでいる。僕が乗っているものとは比べ物にならないほど洗練されたフレームが、冷たい光を放っていた。
「来たか、瀬戸」
声をかけられて振り返ると、工房の作業台の脇で、一ノ瀬が腕組みをして立っていた。その隣には、作業着を着た体格の良い初老の男性が微笑んでいる。
「お疲れ様です……。その、すみません、フレームを壊しちゃって……」
僕は気まずそうに頭を下げ、トラブルを起こした車いすを差し出した。
一ノ瀬は不敵な笑みを浮かべながら、亀裂の入ったキャスターの支柱部分を指先でコンコンと叩いた。
「見事だな。ただがむしゃらに突っ走るからこうなる。だが、自分の限界を知るための代償としては安いものだ」
そう言って一ノ瀬は隣の男性に視線を向けた。
「こちらは、この店の専属メカニックの野田さんだ。お前のそのポンコツの相棒を、少しはマシにしてもらいに連れてきた」
「はじめまして、野田です。どれ、見せてごらん」
野田と呼ばれたメカニックの男性は、手際よくレンチを手に取り、慣れた手つきで車体の状態を確認し始めた。
プロの眼差しが、僕が気づかなかったフレームの歪みや消耗具合までも次々と暴いていく。
事故直後の絶望から這い上がり、我流でここまで走ってきた僕にとって、この工房の空気感はあまりにも圧倒的だった。しかし、それは同時に、僕が新しい世界へと確実に歩みを進めている証拠でもあった。




