### 第33話:一ノ瀬の指定
### 第33話:一ノ瀬の指定
フレームに入った微かな亀裂。その事実を重く受け止めた僕たちは、その日の練習を早々に切り上げざるを得なかった。
無理な負担が車体にどれほど危険かを痛感させられた一方で、このままでは週末に予定されている一ノ瀬との練習会に間に合わないという新たな焦りが生まれた。
「どうするんだよ、瀬戸。このままじゃ次の練習会どころじゃねえぞ」
帰り道、日常用の車いすを漕ぎながら、翔太が不安そうな顔で僕の横を並走する。
「……一ノ瀬さんに相談するしかない」
僕はポケットからスマートフォンを取り出し、一ノ瀬の連絡先を画面に表示させた。
自分で招いた結果とはいえ、機材のメンテナンスや扱いの甘さを指摘されるのは確実だ。それでも、あの男なら、この危機を打開する術を知っているはずだった。
画面をタップし、メッセージを送信する。
『一ノ瀬さん、お疲れ様です。練習中に車いすのフレームに亀裂が入ってしまいました。週末の練習会について、ご相談があります』
返信はすぐに戻ってきた。
『――ほう。自慢の新しいタイヤを試した代償か。いいだろう、今日の放課後、指定するスポーツ用品店の工房まで車体を持ってこい。俺が立ち会ってやる』
住所とともに送られてきた場所は、市街地の外れにある、競技用車いすの専門メンテナンスも手掛ける大きなショップだった。
「指定された場所、知ってるか?」
画面を覗き込んだ翔太が首をかしげる。
「ああ、市街地の向こうにあるショップだ。……行くしかないな」
事故直後の絶望から始まり、自分なりの適応と試行錯誤を重ねてきた第1巻の物語は、いよいよ一ノ瀬のホームグラウンドとも言える「プロの領域」へと足を踏み入れようとしていた。




