### 第30話:限界のテストケース
### 第30話:限界のテストケース
一ノ瀬が残していった「課題」という言葉は、翌日の放課後になっても僕の頭から離れなかった。
もっと深い負荷をかけろ――。
校舎裏のアスファルトコートに立ちながら、僕はふと、いつもより少し高めの段差や、あえて水たまりが乾いて凸凹になったグラウンドの端に目を向けた。
「おい、瀬戸。今日はまた一段と険しい顔してどうしたんだよ」
ラケットを抱えた翔太が、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「いや、一ノ瀬さんに言われたんだよ。今の練習のやり方じゃ、本当の舞台には通用しないってね」
「なんだと? あんな不気味なコーチの言うことなんて真に受けるなよ」
「でも、間違っちゃいないさ。僕たちはまだ、この学校の狭い敷地の中で満足しているだけかもしれない」
僕は車いすのタイヤをきゅっと鳴らし、コートの隅にある頑丈なコンクリートの段差を見据えた。
日常の移動では極力避けているその段差は、高さこそ十センチ程度だが、車いすのフロントキャスターを絶妙のタイミングで持ち上げなければ、勢いよく激突してバランスを崩してしまう難所だ。
「まさか、そこを攻める気か?」
翔太が息を呑む。
「ああ。タイヤに負荷をかけ、自分の反射の限界を試すには、平らな場所を走っているだけじゃ足りない」
僕は深呼吸をし、ハンドリムに両手をかけた。
事故直後の絶望、自分の足で走れない現実、そのすべてを飲み込んで、僕は車体を一気にその段差へと走らせた。
ガツンッ!
衝撃が全身を突き抜け、腕の筋肉が悲鳴を上げる。
それでも僕は前傾姿勢を崩さず、フロントキャスターを鮮やかに浮かせて段差をクリアしてみせた。
「……っよし!」
心臓が激しく脈打つ中、確かな手応えが手のひらと背中を駆け抜ける。
一ノ瀬の挑発に煽られた結果かもしれない。けれど、この小さな挑戦の積み重ねこそが、第1巻のクライマックスへ向かう僕を確実に強くしていた。




