### 第29話:新たな視線と問い
### 第29話:新たな視線と問い
フェンス越しに投げかけられた一ノ瀬の冷徹な言葉が、放課後の穏やかな空気を切り裂いた。
学内の遊びみたいなラリー――その表現に、胸の奥がチクリと痛む。翔太と泥臭く重ねてきた日々の練習は決して遊びなんかじゃないという自負があった反面、一ノ瀬が知る「本当の競技の世界」との圧倒的な隔たりを突きつけられた気がした。
「……遊びなんかじゃありません」
僕は一歩も引かず、フェンスの向こうに立つ一ノ瀬を真っ直ぐに見据えて言い返した。
「毎日、ここで自分の限界と向き合って、少しずつ前に進んでるつもりです」
一ノ瀬はしばらく無言で僕を見つめていたが、やがてフッと息をつき、片側の口元を歪めて笑った。
「口だけは一人前になったな。だが、言葉でどれだけ威勢のいいことを言おうが、コートの上で結果を出さなければ意味はない」
彼は腕組みを解き、ポケットに両手を突っ込むと、背後へと向き直った。
「わざわざ学校の裏庭まで冷やかしに来たわけじゃない。週末の練習会の前に、お前に一つ課題を出してやる」
「課題、ですか?」
「ああ。今のままでは、次のステージで一瞬にして足元をすくわれる。お前のその新しいタイヤに、もっと深い負荷をかけてみろ。自分の限界の壁がどこにあるのか、身をもって知ることだ」
それだけ言い残すと、一ノ瀬は振り返ることもなく、そのまま足早に校門の方へと歩き去っていった。
その後ろ姿が見えなくなると、張り詰めていた緊張感が一気にほどけ、僕は小さく息を吐き出した。
「なんだあいつ……めちゃくちゃプレッシャーかけてくるじゃねえか」
いつの間にか隣に寄ってきていた翔太が、呆れたような、しかしどこか悔しそうな顔で一ノ瀬の背中を見送っていた。
「でも、言ってることは間違ってないさ」
僕は自分の車いすのタイヤを見下ろした。
新しいタイヤはまだ黒々と輝いている。一ノ瀬の言う「もっと深い負荷」とは何を意味するのか。このままの練習の延長では、あの男が言う「本当の舞台」には到底たどり着けない。
事故直後の絶望を乗り越え、車いす生活に適応し始めた今の僕にとって、それは新たな壁であり、同時に超えるべき次なる試練だった。




