### 第26話:雨音のキャッチボール
### 第26話:雨音のキャッチボール
雨に濡れた体育館の片隅は、外の嵐のような悪天候とは裏腹に、どこか静まり返っていた。
外でテニスができない代わりに、僕たちはバスケットボール用のコートの端を借り、壁を相手に見立てたインドアでのトレーニングに切り替えていた。
「それっ!」
翔太が力強く投げ込んだテニスボールが、コンクリートの壁に当たって乾いた音を立てて跳ね返ってくる。
僕はそれを日常用の車いすで素早く追いかけ、ラケットの芯で正確に捉えた。
パァンッ!
狭い空間に、鋭い打球音が響く。
「お、いい音じゃねえか」
「これなら雨でも感覚を鈍らせずに済みそうだね」
ラリーを続けるうちに、体の芯からじっとりと汗が滲んできた。
外のグラウンドで泥を跳ね飛ばしながら走るのとは違う。しかし、限られたスペースと限られた動きの中でボールコントロールを突き詰めるこの練習も、今の僕にとっては大切なステップだった。
ふと、ボールを打ち返しながら、一ノ瀬から言われた言葉を思い出す。
『足元を制する者がコートを制する』
そして、自分が事故の絶望から抜け出すために、ただ焦りだけを募らせていたこと。
自分の足が動かないという現実を呪うのではなく、今この車いすの上で、どれだけ自分の身体をコントロールし、ボールを意図した場所へ導けるか。
雨音が屋根を叩く音を聞きながら、僕は強くラケットを握りしめた。
「どうした瀬戸、ぼおっとしてるとエース取るぞ!」
「っ、油断するな!」
翔太の笑い声に押し戻されるように、僕は再びボールへと視線を集中させた。
雨の日の体育館で、僕の心は確実に一つ先のステージへと向かっていた。




