### 第24話:擦り切れるプライド
### 第24話:擦り切れるプライド
放課後のコートを後にした僕は、夕暮れの帰り道を日常用の車いすで一人進んでいた。
アスファルトの振動が、手のひらの傷口を通してジリジリと神経を逆なでる。夕陽に伸びる自分の影が、やけに小さく、頼りなく見えた。
家に帰り、自室のベッドへと身体を移す。
シャツを脱ぐと、鏡に映った自分の上半身は疲労と緊張でこわばっていた。肩の筋肉はパンパンに張って熱を持ち、背中には鉛を背負ったような重だるさがまとわりついている。
――これが、現実だ。
競技用車いすに乗れば風を切って走れるし、一ノ瀬の前で一矢報いることもできた。けれど、それはほんの一瞬の輝きにすぎない。毎日のように襲いかかる肉体的な疲労、掌の絶えない傷、そして「歩けない」という消えない事実。日常生活の小さな段差や、周囲の何気ない視線に心を削られる瞬間は、今でも数え切れないほどあった。
ベッドに横たわり、天井を見上げる。
事故に遭ったあの日の冷たいアスファルトの感触が、ふとフラッシュバックするように蘇る。あの瞬間から、僕の世界は強制的に狭められた。どれだけ足掻こうとも、二度と自分の足でピッチに立つことはできない。その絶望が、時折波のように押し寄せてきて、喉の奥を締め付ける。
(僕は、本当にこのままでいいのか……?)
車いすテニスを始めたのは、何かにすがりたかったからかもしれない。ただ絶望しているだけの自分から逃れるために、必死に新しい「武器」を掴もうとしていただけなのかもしれない。
翔太の真っ直ぐな熱量や、一ノ瀬の妥協のない眼差しに触れるたび、自分の内側にある弱さが余計に際立って感じられた。
コンコン、とドアが軽くノックされ、母親が夕食のトレイを持って部屋に入ってきた。
「瀬戸、起きてる? 少しでいいから何か食べておきなさい」
「……うん、ありがとう。あとで食べるよ」
声を絞り出すと、母親は心配そうな目を向けながらも、静かに部屋を出て行った。
温かい食事が乗ったトレイを見つめながら、僕は小さく息をつく。
まだ第1巻の途中だ。絶望から這い上がるための階段は、まだ始まったばかりなのだから。




