### 第22話:新しい轍(わだち)
### 第22話:新しい轍
総合スポーツセンターの整備された一角で、僕は一ノ瀬から譲り受けた予備タイヤを自分の競技用車いすへと慎重に組み込んでいた。
レンチを回す手つきは、先週までの不慣れさが嘘のように板についている。すり減り、ワイヤーが剥き出しになっていた古いタイヤを外し、新しく黒々と輝くタイヤを装着する。ボルトをしっかりと締め直し、空気を適量に満たした。
「よし……」
車体を下ろし、軽くタイヤを回してみる。
ウレタンのフロアを捉える感触は抜群で、無駄な抵抗感が一切ない。まるで、僕自身の足の筋肉が蘇ったかのような軽快な回転だった。
「どうだ、馴染んだか?」
背後から声をかけてきた一ノ瀬は、自分のラケットバッグを肩に担ぎながら満足そうに目を細めていた。
「完璧です。これなら、どんな急な旋回でも負ける気がしません」
「そう威張るな。機材がいいだけで勝てるほど、この世界は甘くないぞ」
口ではそう言いながらも、一ノ瀬の表情には確かな期待の色が滲んでいた。
体育館を後にし、外に出ると、初夏特有のまぶしい陽光が僕たちの頬を照らした。
風が心地よく吹き抜け、青空がどこまでも広がっている。
あの日、事故に遭ってすべての自由を奪われたと感じた絶望の底から、僕はここまで這い上がってきた。いや、這い上がってきたというよりも、新しい乗り物と、新しい仲間たちと共に、自分で新しい道を切り拓いてきたのだ。
学校に戻る道すがら、僕はスマートフォンを取り出し、翔太にメッセージを送った。
『タイヤ交換完了した。いつでも相手になるぞ』
数分後、すぐに返信が返ってきた。
『マジか! じゃあ今日の放課後、いつもの校舎裏で待ってろ。今度こそ完膚なきまでに叩きのめしてやるからな!』
画面に映るその文字を見て、僕は思わず声を上げて笑った。
校舎裏のひび割れたアスファルト。決して恵まれた環境ではないし、またすぐにタイヤが傷むかもしれない。けれど、今の僕には恐れるものなど何もない。
新しいタイヤが刻む轍は、真っ直ぐに未来へと続いている。
僕の青春のラリーは、ここからさらにスピードを上げて加速していくのだ。




