### 第19話:扉の向こうの喧騒
### 第19話:扉の向こうの喧騒
土曜日の朝、僕は指定された市内の総合スポーツセンターの前にいた。
平日の静かな校舎裏とは打って変わり、施設のエントランスは多くの人々で活気に満ちている。バスケットボールのシューズが床を鳴らす音、バレーボールの鋭い打撃音、そして子どもたちの賑やかな笑い声が、自動ドアが開くたびに外へと流れ込んできた。
日常用の車いすを漕ぎながら、僕は案内板に目を走らせる。
「……第2体育館、か」
通路の奥へ進むにつれて、周囲の音が少しずつ変わっていく。
キュッ、キュッ、とアスファルトとは違う、硬質なウレタンコート特有の鋭い摩擦音。そして、乾いたボールの打撃音に混じって、選手たちの短い掛け声が響いていた。
重い両開きの扉を押し開けた瞬間、視界が一気に開けた。
「――っ」
そこは、僕が知っている「テニスコート」の概念を少しだけ歪めた、鮮やかな世界だった。
コートの上を縦横無尽に駆け抜ける、何台もの競技用車いす。タイヤがハの字に傾げられた機体が、まるでダンサーのようにその場でスピンし、鋭い旋回を描きながらボールを追いかけている。
スピード、音、そして選手たちの表情に宿る凄まじい熱量。
そこにあったのは、障害というハンデを背負った者たちのリハビリの延長などではない。紛うことなき、激しいトップアスリートたちの戦場だった。
「おや、もう来たか」
圧倒されて立ち止まっていた僕の耳に、よく通る低い声が届いた。
声のほうを向くと、フェンスの脇に立った一ノ瀬が、腕組みをしながらこちらを見下ろしていた。相変わらずの鋭い眼光だが、その口元にはほんの微かな笑みが浮かんでいるように見えた。
「一ノ瀬さん……」
僕は日常用の車いすから、あらかじめ持ち込んでいた競技用車いすへと器用に乗り換え、彼の目の前まで進み出た。ワイヤーが覗くボロボロのタイヤを、一ノ瀬はちらりと一瞥する。
「ほう、本当にワイヤーが出るまで使い潰したんだな。見事なものだ」
「おかげさまで、校舎裏の特訓は順調です」
僕が皮肉めかして笑うと、一ノ瀬はフッと鼻を鳴らした。
「いいだろう。口先だけでなく、その腕がどれほど動くようになったか、今からこのコートで確かめてやる。準備はいいか、瀬戸?」
周囲の熱気と、一ノ瀬のプレッシャーが全身を包み込む。
いよいよ、本当のコートでの勝負が始まる。




