### 第15話:摩擦の限界
### 第15話:摩擦の限界
何度目のラリーだっただろう。
夕暮れの空がみるみるうちに茜色から深い群青へと染まっていく中、僕たちの息の根を詰めるような打ち合いは続いていた。
「ハァ……ハァ……!」
翔太が荒い息を吐きながら、大きく振りかぶってフォアハンドの強打を放つ。ボールは風を切るような鋭い音を立てて、僕のコートの左隅へと突き進んできた。
――速い。
反応は遅れていない。僕はタイヤを急回転させ、落下地点へと車体を滑り込ませた。腕の筋肉が悲鳴を上げ、掌のテーピング越しにジンジンとした痛みが走る。それでも、目の前のボールに集中し、ラケットの芯を合わせた。
ガツンッ!
打ち返したショットは、綺麗な軌道を描いて翔太のコートへ返っていく。
しかし、その瞬間だった。
キィィィ――ン……!
車輪から、今まで聞いたこともないような異質な金属音と、ゴムが激しく削れる激しい摩擦音が響いた。
同時に、車体がガクンと大きく傾ぐ。
「っ……!?」
バランスを崩した僕は、そのまま車いすごとアスファルトの地面に横転した。
冷たい地面に体が打ち付けられ、ラケットが手から離れてコンクリートの上を転がっていく。肩と肘に鈍い衝撃が走り、息が詰まった。
「おい、瀬戸っ!」
翔太が慌ててネットを迂ダリ、こちらへ駆け寄ってくる。
「大丈夫か、おい!」
「……っ、あぁ、大丈夫だ……」
僕は歯を食いしばりながら、倒れた車いすのフレームを掴んで身体を起こそうとした。しかし、異変はすぐに目に入った。
右側の車輪。そのキャンバー角がついたタイヤのゴムが、激しい摩擦と摩耗に耐えきれず、完全にすり減って中のワイヤーがむき出しになっていたのだ。アスファルトのざらついた表面が、消耗しきったゴムの寿命をとうとう限界まで削り取ってしまったらしかった。
「なんだこれ……タイヤが……」
駆け寄ってきた翔太が、ワイヤーの覗くタイヤを見て絶句した。
僕は自分の荒い息を整えながら、地面に転がった無残な車輪を見つめた。
悔しさと、そしてどこか冷めた現実が頭をよぎる。気合と根性だけではどうにもならない物理的な壁が、音を立てて目の前に立ちふさがった瞬間だった。
「……今日は、ここまでだな」
僕は苦笑いを浮かべ、砂まみれになった自分の掌を開いた。テープの隙間から、赤い滲みがほんの少しだけ覗いていた。




