### 第11話:胎動するコート
### 第11話:胎動するコート
翌日の放課後、僕はいつものように校舎裏のアスファルトコートへ向かった。
昨日、翔太と交わした他愛のない会話が、なぜか胸の片隅に温かく残っている。誰かに見られているという意識が、以前のような居心地の悪さではなく、ほんの少しの張り合いに変わっていた。
トランクから競技用車いすを下ろし、手慣れた手つきで組み立てる。
フレームを締め直す金属音が、夕方の静かな空気に響いた。
「おい、瀬戸!」
背後から飛んできた声に振り返ると、そこに立っていたのは翔太だった。しかも、手には自分のテニスラケットだけでなく、もう一本の使い古されたラケットをぶら下げている。
「……どうしたんだよ、そんなもの持って」
僕は車いすのハンドルに手を置いたまま、怪訝そうな顔で尋ねた。
翔太は少し照れくさそうに頭を掻き、ガリガリとコートの隅に足を踏み入れた。
「いや、昨日お前が壁打ちしてるの見てさ。なんだか面白そうだったから、つき合ってやろうと思ってよ。ほら、お前、壁相手じゃ物足りねえだろ? 生身の人間が相手の方が、練習になるはずだ」
予想外の言葉に、僕は思わず目を丸くした。
「……僕の相手をするってことか? 車いすテニスは普通のテニスとはルールが違うぞ。ツーバウンドまで返球が認められてるし、なにより……」
「そんなの知ってるよ!」
翔太は遮るように言い放ち、ラケットを僕に放り投げた。キャッチしたグリップの感触が温かい。
「ルールがどう違おうと、ネットの向こうからボールを打ち返すってのは同じだろ? まぁ、お前がどれだけ動けるか、こっちが試してやるよ」
悪びれない笑顔を浮かべる翔太を見て、僕は胸の奥が熱くなるのを覚えた。
同情でも、気まぐれでもない。一人のテニスプレイヤーとして、僕に向き合おうとしてくれている。
「……上等だ」
僕は車いすのタイヤを強く蹴り、コートの中央へと滑り込んだ。
ネットを挟んで向かい合う。
かつてサッカーのピッチで味わった、あのピリついた緊張感が、アスファルトの隅っこに蘇っていく。
「いくぞ、瀬戸!」
翔太のトスから、小さな、けれど確かな第一球が放たれた。
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