### 第107話:交差する極限
### 第107話:交差する極限
「オラッ、終わりだ!」
第10ゲーム、真壁の放ったスマッシュが、まさに爆風のような勢いで僕たちのコートへと突き刺さろうとする。
スコアは5-4。マッチポイントを握る僕たちに対し、王者は最後のプライドを懸けて全身全霊のウィナーを狙ってきた。
(――見えた!)
だが、その弾道は僕の脳内ですでに完全に予測されていた。
野田さんがミリ単位で調整してくれたマットブラックの車いすは、まるで僕の神経の延長線上にあるかのように、一切のタイムラグなく右斜め前方へと鋭くスライドする。フレームが軋む音すら心地よく響き、骨盤の軸はブレることなく、極限の安定性を保ち続けていた。
一ノ瀬コーチに叩き込まれたすべての基礎が、ここで完璧に噛み合う。
パァンッ!!!
全身の力を乗せたラケットが、ボールの芯を正確に捉え、弾き出した。
それは真壁たちの予想の遥か斜め上を抜け、彼らの足元を完全に置き去りにして、ベースラインの隅っこへと深く突き刺さる。
「なっ……!?」
真壁の足が、そして御堂のラケットが、届かない。
静寂の訪れたコートに、主審の乾いたコールが響き渡った。
「ゲーム、アンド、マッチ……! セトー・翔太ペア、ゲームカウント6-4!」
勝った――。
胸の奥から、熱いものが一気にこみ上げてくる。
昨日、完膚なきまでに叩きのめされた0-6のスコア。あの絶対的な壁だった王者ペアを相手に、僕たちはついに、自らの手で勝利をもぎ取ったのだ。




