### 第108話:静かなる余韻
### 第108話:静かなる余韻
主審の終了のコールが、ナショナルトレーニングセンターの青いハードコートに吸い込まれていくように消えていった。
「はぁ……っ、はぁ……っ!」
荒い息を何度も吐き出しながら、僕はマットブラックの車いすのハンドリムからそっと両手を離した。握りしめすぎていた手のひらが、ジンジンと心地よい熱を帯びている。
隣を見ると、翔太が両手で顔を覆い、そのまま車いすの上でぐったりと肩を揺らしていた。言葉はなくとも、二人で勝ち取った初めての勝利の重みが、全身の細胞に染み渡っていくようだった。
「……やりやがったな、お前ら」
低く、しかし確かな響きを持った声が聞こえて顔を上げると、コートサイドに一ノ瀬コーチが立っていた。
いつもの厳しい眼光ではなく、その口元にはかすかな、しかし隠しきれない満足気な笑みが浮かんでいた。
「昨日のでくの坊どもとは、少しは見違える動きだったぞ」
「コーチ……!」
翔太が顔を上げ、嬉しそうに歯を剥き出して笑う。
その少し後ろで、完敗を喫した真壁と御堂が息を整えながら、複雑な表情でこちらを睨みつけていた。怒りでも絶望でもない。自分たちの足元をすくい上げた僕たちを、初めて「対等なライバル」として認めたような、そんな険しくも熱い眼差しだった。
「おい、瀬戸」
真壁が荒い息のまま、車いすをこちらへ少しだけ進めて口を開く。
「……今回は運が良かっただけだ。次も勝てると思うなよ」
「ああ、次も受けて立つよ。何度でもね」
僕はまっすぐに真壁を見据え、はっきりとそう言い返した。
昨日の自分なら、きっと怯んで目を逸らしていただろう。だが、今の僕には野田さんが作ってくれた最高の相棒があり、一ノ瀬コーチに叩き込まれた揺るぎない軸があり、そして隣には最高の相棒がいる。
全国の頂点へ至る長い道のり。
その途方もない壁に、僕たちは確実に最初の一歩を刻み込んだ。
朝陽が完全に昇りきり、青いコートの隅々まで眩しい光を投げかけていた。物語はここから、真の全国舞台へと加速していく。




