### 第105話:猛獣の牙
### 第105話:猛獣の牙
「オラァッ!!」
真壁の喉から絞り出されたような絶叫とともに、第8ゲームのサーブが放たれた。
それはこれまでのどんなショットよりも重く、唸りを上げて空気を切り裂く。スマートな戦術などとうに捨て去り、王者のプライドをズタズタにされた怒りとパワーだけでねじ伏せようとする、剥き出しの暴力そのものだった。
「っ……!」
その圧倒的な威圧感に、一瞬だけ身体がすくみかける。しかし、僕の体幹の軸は微動だにしなかった。野田さんが仕上げてくれたマットブラックの車いすは、激しい気圧の変化さえ跳ね返すように、僕の意思に完全に追従している。
(逃げない……! 捉える!)
僕は車体を一気に踏み込み、最短距離で落下地点へと滑り込む。
ラケットの芯でその暴威の球を完璧に捉えた瞬間、手にビリビリと痺れるような衝撃が走った。
パァンッ!!!
打ち返されたボールは、ネットスレスレを這うようにして真壁たちのコートへと突き刺さる。
驚愕に目を見開く御堂の脇をかすめ、ボールはそのままバックフェンスへと激突した。
「ゲーム、瀬戸・翔太ペア、5-3!」
主審のコールが、静まり返ったコートに高らかに響き渡る。
マッチポイント。ついに、僕たちは全国の頂点へと手をかけるところまでたどり着いていた。




