### 第104話:王者の変貌
### 第104話:王者の変貌
「ゲーム、瀬戸・翔太ペア、4-3!」
ついに僕たちは試合を通じて初めてのリードを奪った。
主審のコールが響いた瞬間、コートサイドで腕を組んでいた一ノ瀬コーチの口元が、ほんのわずかに、しかし確かに緩んだように見えた。
「ちっ……調子に乗りやがって……!」
真壁の顔から完全に余裕が消え去り、その瞳には剥き出しの焦燥と怒気が渦巻いていた。隣の御堂も、冷徹だったそれまでの雰囲気をかなぐり捨て、歯を食いしばってラケットを握り直している。
全国の頂点に君臨する王者としてのプライドが、彼らをさらなる高み――いや、荒々しいまでの本気へと引きずり出そうとしていた。
「おい、来るぞ……! さっきまでとは空気が違う!」
翔太が息を弾ませながら、低い声で警告を発する。
その言葉通り、ベンチに戻る真壁たちの背中から立ち上る闘気は、先ほどまでのそれとは明らかに質が違っていた。スマートさを捨て、泥臭くでも僕たちを叩き潰すための「本当の牙」を剥き出しにしてきたのだ。
(来い……! どんな球が来ようと、僕たちの軸は揺るがない!)
野田さんがミリ単位で調整してくれたマットブラックの車いすをしっかりと引き締め、僕は自らの体幹の軸を再び深くロックする。
スコアは4-3。
王者の逆襲か、それとも僕たちの下克上か。試合はいよいよ、勝負のクライマックスへと雪崩れ込んでいく。




