### 第103話:加速する次元
### 第103話:加速する次元
「そこだ、真壁!」
御堂の鋭い叫びとともに、放たれたボールが僕たちのコートの右隅へと急角度で落ちてくる。
一瞬でも反応が遅れれば、そのままラインを割るか、完璧なウィナーを奪われるコースだ。しかし、僕の視界にはその軌道がスローモーションのように鮮明に捉えられていた。
(――間に合う!)
骨盤をしっかりと立て、腹筋と背筋の軸で上半身を完全にロックする。
野田さんにミリ単位で調整してもらったマットブラックの車いすは、僕の右腕のわずかな力みすら逃さず、地面を噛みしめるようにして最短距離へと滑り込んだ。フレームのガタつきは一切ない。完璧なシンクロ率で、車体はまるで自分の足の一部のように機動している。
パァンッ!!!
ラケットの芯がボールを捉えた瞬間、これまでにないほど重く、鋭い打球音がサブコートの空気を引き裂いた。
ボールはネットスレスレをかすめ、相手コートのベースライン深くへと突き刺さる。追いついたはずの真壁のラケットは、その強烈な勢いに弾かれるようにわずかに上体を反らされた。
「なっ……!?」
真壁の口から、驚愕の息が漏れる。
先ほどまで僕たちを圧倒していた王者のスピードが、今の僕たちの予測と機動性の前では、ほんの少しだけ遅れて見えた。
「ナイスショット、瀬戸!!」
隣のポジションから翔太が満面の笑みを浮かべ、そのまま勢いよく前衛へとポジションを詰める。
スコアは3-3の同点。しかし、コートの主導権は完全に僕たちの掌へと移りつつあった。
全国の頂点という高すぎる壁。
その巨大な要塞に、僕たちは今、確実にとてつもない亀裂を刻み込んでいた。




