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第2話:鋼鉄の装架(アウター・フレーム)

■壊れたマウント

右腕は、もう壊れていた。

感覚はない。だが、熱だけが異様に残っている。

一歩踏み出すたび、肩の奥で「ズリッ」と骨が擦れる不快な震動が脳に響く。

(……密度は15倍。マウントが壊れて当然だ)

夜道を這うように進みながら、テオはただ結論だけを更新していく。

(骨を信じるな。……次からは、鉄を使え)

視界の端で、ひび割れたレンズが虹色に滲む。

テオは笑った。泥を噛むような、自嘲の笑みだ。

■フェルムの城門

「おい、またお前か」

門番が槍の柄で、テオの右腕を指した。

「……なんだその腕……見てると、気持ち悪くなる」

袖の下、右腕はどす黒く腫れ上がり、不自然な角度で垂れている。

「あ、あ……こ、こんばんは……。ただの、調整ミスで……」

「けっ。相変わらずオイル臭ぇな。神聖な詠唱が響くこの街に、お前のような不浄なガキは似合わねえんだよ」

門番たちは笑う。

その横を、豪華な馬車が通り過ぎた。磨き上げられた車輪が、静かに回る。

――ギ、……ギィ。

ほんの一瞬、不規則な軋みが混じる。

テオの視線が、その一点に止まった。

(……三番目の軸。グリスが切れてる。……次の峠で、壊れるな)

それ以上は口にしない。

無言のまま門をくぐる。背後で、門番の小さな呟きが落ちた。

「……あいつ、なんで治癒魔法を使わねえんだ? 痛みで狂ってんのか……?」

■拠点の馬小屋

フェルムの北端。馬の尿の匂いが漂う、薄暗い馬小屋。

そこがテオの「ピット」だった。

「……戻す」

大黒柱の前に立つ。

汚れた布を噛み締め、肩を押し当てた。

(……支点よし。一気に叩き込む)

――ガコッ!

衝撃が体内を突き抜ける。

「……ッ……!!」

視界が白く弾けた。

ヒビの入ったメガネが、冷や汗で白く曇る。

膝をつき、数分の間、荒い呼吸を繰り返した。

それでも、指を動かす。

「……よし。戻った」

次。

リュックを開ける。鉄板。革ベルト。ボルト。

「……骨の修復を待つ時間は、ない」

カン、カン、カン。

夜の静寂に、鉄を叩く澄んだ音だけが響く。

曲げる。合わせる。挟む。

「――締める」

ギュリ……ギュッ。

肉が潰れる音。ボルトが鉄板を食い込ませ、右腕を強引に固定していく。

頼りなかった腕に、冷徹な剛性が宿った。

「……クリアランス、ゼロ。これでいい。壊れるなら、この形の方が綺麗だ。」

右腕に、鉄が通る。

それは治癒ではない。ただの置換だ。

――カサリ。

藁が、わずかに鳴った。

テオは顔を上げない。ただ、冷たい鉄を見つめていた。

■チップの精製

赤く焼いた鉄片を、ペンチで掴む。

書き込むのではない。

鉄の組織の隙間に、詠唱を魔力ごと直接「圧入」していく。

チリ……チリ……チリ……。

神経を引っ掻くような振動音。

一瞬、音が消えた

繋がれた馬たちが一斉に鼻を鳴らし、怯えたように後ずさった。

テオは気にしない。

極限まで研ぎ澄まされた集中の中で、新しい『チップ』が青い輝きを放つ。不気味なほど均一な光だった

「……よし。次は、バレル冷却の設計か……」

プツリ、と糸が切れた。

テオはレンチを握ったまま、藁の上に倒れ込んだ。

鼻を突くのは、オイルと泥の匂い。

腕の鉄が、カンドラの火を反射して鋭く光る。

それは、世界で一番不格好で、それでいて彼が最も信頼できる「道具」だった。

■世界に見つかる瞬間

――「ギィ……」

翌朝。扉が開いた。

差し込む朝日の光の中に、一人の影が落ちる。

そこには、異様な鉄を右腕に巻き付け、油汚れにまみれて倒れ込んでいる少年がいた。

扉の前に立つ少女――白銀の装甲を纏った聖騎士リネルは、無意識に、一歩踏み出すのを躊躇した。

しかし、目を逸らすべきだと分かっているのに、視線が離れなかった

暗闇の中、独りで骨をはめ込み、鉄を肉体に打ち込んでいた狂気を。

彼女の視線は、テオの顔ではなく、その右腕の「鉄」に釘付けになる。

「……やっぱり、あなただったのね」

一歩、近づく。

その手は、腰の聖剣の柄にかかっていた。

「昨日の、山の爆発。……そして、この腕」

言葉が、わずかに震える。

「……あなた、それ。自分を……『魔法』で『改造』しているの?」

テオは答えない。

鉄の周囲だけ、空気がわずかに歪み続けていた


22:10に第3話投稿します

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