先任の先任
ある日の午後のこと。
俺と先任は二人でぼんやりと時間を送っていた。
仕事がないと言うことは本当のようで、朝の業務を終わらせると本当にやることがない。
そういう環境で先任は何時も俺に仕事用のデスクと電話番を任せて寝ることが多かった。
しかし、その日だけは何故か起きていた。
「暇だな、何か面白い話しとかない?」
「無理言わないでくださいよ。急にそんな無茶振りされても、俺には無理ですからね。」
その時は俺と先任は大分打ち解けられていた。
少なくとも馬鹿話をするくらいには。
「だよな......お前つまらないよな......」
「うわ、それ少し傷つくな。」
という感じで栄養のない話を続けていたところだった。
ふと、先任が突拍子もないことを話し出した。
「あいつ元気かな?」
「あいつって?」
俺はその話に食いついた。
実際に俺もそこまでやることが無かったとのである。
電話番と言っても電話なんて来ないし、今日の分量の仕事は既に終わっていた。
「俺の先任のことだよ。」
「先任?」
ということは、俺の先任の先任に当たる人か。
俺は少し興味が湧いた。
「どんな人でしたか?」
「それがな......伝説だった。」
ほう、どういう意味の伝説なのだろうか?
振り出しから面白そうな話である。
「その人は事業家でね。何でもこの地域の繁華街に飲食店を何個も運営している人だった。」
「それはすごいですね。この辺りで飲食店って金持ちですね。」
俺の地元はそこそこ栄えた町で、その繁華街になると、賃料とかも馬鹿にならない水準だった。
それなのに、飲食店数個とかはすごい金持ちって感じになる。
「そうなんだよ。高校を卒業してから、親に車を買ってもらったみたいでな。その車を売って、ゲーム機を買ったって。で、それで金を稼いで、ゲーム機を増やして、ゲームセンターを作ったって聞いた。それから飲食店ビジネスを始めて儲けたんだって。」
「ほう、中々胡散臭い話です。」
あまりにも作り物めいた話に俺はそう感想を残した。
しかし、先任にしてみれば、その話には説得力があるとのこと。
その理由というのは...
「こっちの洞隊に来るとき、いつもスーパーカーに乗ってきてたんだよ。」
「へえ、それはシュールですね。」
俺は町の役所に駐車されたランボルギーニを想像した。
ぼろ建物の前に十数個しかなに駐車場に停められたランボルギーニ。
それは完全にシュールな光景だった。
「それでその人とは連絡取ったりしてます?」
「いや、してねえ。と言うか、出来ねえ。」
「それはどう言うことですか?」
神妙な言い方をする先任。
俺は最後に仲違いでもしたのかと思った。
だが、現実はもっと突飛だった。
「そいつ、保険詐偽で捕まって、陸軍の監獄に入ったんだからな。」
「まさか、伝説って?」
「ああ、除隊も出来ずに逮捕されたから、伝説になった。」
まさかそんなことがあったとは。
そう言えば、俺の先任の役職は一等兵。
下から数えて2番目の階級である。
先任にしては階級が低いと思ったらそんな事情だったのか。
元々だったら、この洞隊に入ることなんて無理だった。
しかし、今回はその先任の犯罪行為によって、この洞隊に空きがで来たということだった。
俺が蜜洞隊に入れたのはその犯罪者のお陰だったのである。
当時の俺はどこまでもラッキーだった。




