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ラスボス悪女に転生したので死亡エンド回避を目指していたのに、なぜか原作以上に詰んでいます  作者: 菱田もな
第三章

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正体-2



 予想していた答えではあったが、実際に聞くと驚きは隠せなかった。


「前世ってことは……!」

「ええ。私もあなたと同じ、転生者ですよ」


 やっぱり、エミリアも転生者だったんだ。

 ユリウスの秘密を知っていたのも、意味深な発言も、全部ゲームで得た知識だと思えば、納得できる。


 嬉しさと驚き、色んな感情が入り混じって、わたしの口からは情けない声が漏れた。


「い、いつから……?」

「前世の記憶を思い出したのは、六歳のときですね。高熱でうなされたあと、すべてを思い出しました」

「わたしよりはやい……」

「ちなみに、貴女が自分と同じ転生者だと気がついたのは、入学式です」

「そ、そんな前から?!」


 出会ってすぐじゃないか。わたしがエミリアを転生者かもしれないと疑いはじめたのは、つい最近だというのに。


「ほら、入学式の日に私が階段から落ちたでしょう? あのとき、思いました。ーー違うんだって」

「違う?」


 首を傾げると、エミリアはくすりと笑った。


「本来のアナスタシア様であれば、私を庇って下敷きになることなどありませんから」

「ああ、なるほど……」


 前世の知識があれば、あの場面でエミリアを助けるのがレインだと知っている。

 それに、本来のアナスタシアなら、あんなふうに派手に地面に突っ込んだりしない。

 

 つまり、わたしの運動神経の悪さでバレたようなものだ。


「それでも確信は持てなかったので、しばらくの間、観察させてもらいました。そしたら、全然違っていたので……」


 ふふっと笑われてしまい、思わずぐっと唇を噛む。


 完璧にアナスタシアの真似をしようとは思っていなかったけど、そこまで彼女とズレているつもりはなかったのだけどなあ。


「そんなに違ってた……?」

「ええ。まず、本来のアナスタシア様であれば、人前で従者相手に赤面することないし、百面相もしません。それとーー」

「まだあるの?!」

「本来のアナスタシア様は、サクルにそこまで執着しませんので」


 少し揶揄うように言われて、思わず顔が熱くなった。


(絶対、食べ物への執着が強い女だと思われてる……!)


 図星すぎて、何も言い返せないのがつらいところである。


 恥ずかしさからつい俯いてしまえば、「そもそもアナスタシア様は、甘いものが得意じゃないので」という声が降ってきた。


「アナスタシアの情報って、そこまで出てたっけ?」

「リメイク版で明かされていますよ」

「そうなんだ……」


 わたしがプレイしたのは無印、つまり初代だけだ。そのあとに出た続編はもちろん、リメイク版の存在なんて知らない。


「エミリアは、オトイノを結構やり込んでいたの?」

「ええ。シリーズ全作品プレイしましたし、ゲームだけでなく、コミカライズや小説も読みましたよ」


 思ったよりも、やり込んでいた。

 好奇心からちらっと続編の話を聞くと、どうやら他国の王子や引きこもりの魔術師などが攻略対象として増えるらしい。


「じゃあ、エミリアの好きな人って続編に出てくるキャラクターなの?」

「……え?」

「ほら、前にアナスタシアを傷つける人を好きになるわけないって言ってたでしょ。だから、続編にはアナスタシアを傷つけるキャラクターはいないから、そうかと思ったんだけど」


 初代のラスボスであるアナスタシアは、続編には登場しない。だから、続編キャラならアナスタシアを傷つけることもない……はずだ。


 まあ、続編でも悪口とか言われていたらどうしようもないけど。


「……違いますよ」


 そう呟くと、エミリアはポケットからあるものを取り出した。


「手を出してくれますか?」


 言われるまま、素直に手を差し出す。次の瞬間、ころりと掌に落とされたそれを見て、思わず息を呑んだ。


「これは……」


 星夜祭のお守りだ。表面には、彼女の瞳と同じ桃色の糸で、星の刺繍が施されている。

 これがどういう意味なのか、分からないほど鈍くはなかった。


「本当は星夜祭の日に、渡したかったのですが……色々とアクシデントがありましたから」


 そう言うと、エミリアはわたしの手を包み込む。その指先は、わずかに震えていて、彼女の緊張が伝わった。


「ずっと、ずっと言いたかった。私が心よりお慕いしているのは、アナスタシア様だけだと」


 桃色の瞳が、まっすぐにわたしを射抜く。


(エミリアが、わたしを好き……?)


 何か言わなきゃ、そう思うのに、まるで蛇に睨まれたかのように、身体が動かない。

 そんなわたしに構うことなく、彼女は言葉を続けた。


「攻略対象者たちなんて、どうだっていい。私は、アナスタシア様だけがほしい」


 一切の迷いもなく、エミリアは言い切った。逃がさないといわんばかりに、指先にそっと力が込められる。

 

「だから……あの時の約束、守ってくださいね」


 約束って、なんだっけーーと考えた瞬間、バチっという嫌な音がその場に響いた。



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