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ラスボス悪女に転生したので死亡エンド回避を目指していたのに、なぜか原作以上に詰んでいます  作者: 菱田もな
第三章

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正体-1



「あー、お腹いっぱい!」


 腕を大きく伸ばしながら、わたしは満足げに呟いた。


「あのお店、初めて行きましたが雰囲気がとてもよかったですね」

「ね! サクルもすっごく美味しかったし、また行こうね!」


 あの後、わたしたちは大量のサクルを食べたり、お揃いの装飾品を買ったりと、めいっぱいデートを満喫した。


 そして今は、高台にあるベンチに並んで座り、休憩している。


「それにしても、アナスタシア様は本当にサクルがお好きなのですね。あんなにたくさん召し上がるなんて」

「えへへ……家だとなかなか食べられないから、つい」


 そう答えながら、わたしは少しだけ肩をすくめた。


 いまだにレインから「サクル食べすぎ禁止令」を出されているわたしは、ここぞとばかりにサクルを堪能してしまったのだ。


 とても幸せな時間だったのだが……


(うぅ……これは、しばらく動けないかも)


 お腹がはち切れそうなくらい苦しい。このまま動いたら、口からサクルが飛び出しそうだ。


(水……水がほしい……)


 せめて口の中だけでもさっぱりさせたい。そう思った瞬間ーー。


「どうぞ」


 すっと目の前に水の入った瓶が差し出された。


「え、これって……」

「先ほど買っておいたのです」


 タイミングのよさに驚きながら、わたしは瓶を受け取る。


 全然気が付かなかった。いつの間に買ってきてくれていたのだろう。


「あれ? エミリアの分は?」

「私は喉が渇いていませんので、お気になさらず」

「……そう?」


 少し申し訳なく思いながら水を口に含むと、口いっぱいに残っていた甘さがすっと流れていく。


「はぁ……生き返った……」

「ふふっ、大袈裟ですね」

「本当に限界だったの……ありがとう、エミリア」

「どういたしまして」


 エミリアは柔らかく微笑む。

 夕暮れの光を受けた栗色の髪が揺れて、その姿が妙に綺麗に見えた。


「あの、エミリアはなんで今日デートに誘ってくれたの?」

「誰にも邪魔されず、アナスタシア様と二人きりになりたかったのです」

「……どうして?」

「そうですねぇ。理由は色々ありますが……」


 エミリアはそう言って、ゆるやかに目を細める。


「アナスタシア様に、もっと私を知っていただきたくて」

「っ……!」


 突然そう言われ、危うく持っていた瓶を落としかけた。なんとか堪えて、わたしは動揺を隠せないまま尋ねる。


「え、えっと……な、なんで……?」

「実は、図書室での会話が少し聞こえてしまいまして」


 なるほど。あの時の会話を聞かれていたのか。


「特に隠していたつもりはなかったのですが……私のせいで、アナスタシア様を不安にさせてしまっていたのなら、申し訳なく思ったのです」


 まっすぐ謝罪されるとは思っていなくて、わたしは言葉に詰まった。


「なので、気になることがあればなんでも聞いてください」

「ほ、本当に?」

「ええ。聞かれて困ることはありませんから」


 それならお言葉に甘えて、と、わたしは次々に質問を投げかけた。


 好きな食べ物。家族構成。休日の過ごし方。

 ほとんどは、前世で知っていた情報と変わらない。


 けれど、ところどころ違う部分もあった。


「好きな色は?」

「シルバーと紫ですね」

(たしか、ゲームではイメージカラーと同じ桃色だったはずだけど……)


「嫌いな食べ物はある?」

「特にありません」

(プロフィールには辛いものが苦手って書いてあった気がするけど……克服したのかしら)


「じゃあ、好きなタイプは?!」

「自身の目的を果たすためなら、どんな犠牲も厭わない方でしょうか」

「……ずいぶん物騒なタイプが好みなのね」


 以前言っていた“好きな人”も、そういう性格なのだろうか。だとしたら、わたしが知っている攻略対象者の中には思い当たる人物がいない。


 でも、続編では攻略対象者が増えていたらしいし、わたしの知らない誰か――という可能性もある。


「もう質問は終わりですか?」

「えっと……」

「本当になんでも聞いてくださって構いませんよ、アナスタシア様」


 桃色の瞳が、まっすぐこちらを見つめてくる。その視線から逃げるように、わたしはそっと目を逸らした。


 もっと聞きたいことはある。


 星夜祭の日、わたしを殺そうとしたのはエミリアなのか。


 わたしのことを、本当は疎ましく思っているのか。


 聞きたいことは山ほどあるのに、どれから口にすればいいのかわからない。


 だからわたしは、まず一番気になっていたことを尋ねることにした。


「じゃあ、もうひとつだけ。……今から聞くこと、意味がわからないって思うかもしれない。その時は、無視してくれていいから」

「はい。なんでしょう?」


 緊張で早くなる鼓動を押さえ込みながら、わたしはゆっくり口を開く。


「――オトイノ。この言葉に、聞き覚えはある?」


 わずかな沈黙が、ひどく長く感じられた。


「オト、イノ……」


 エミリアが静かに呟く。

 その声音はいつも通りで、そこから何かを読み取ることはできない。


「『剣と魔法と乙女の祈り』。略してオトイノ――懐かしいですね」


 ふっと、エミリアが微笑む。


「久しぶりに他人の口から聞きました」

「エミリア、それって……!」


 驚きに目を見開くわたしに、エミリアは口元に手を添えたまま、楽しそうに目を細めた。


「ええ、もちろん知っていますよ」


 そして、穏やかな声で告げる。


「……前世で、一番好きだったゲームですから」



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