エミリア・セラフィーネ-5
やがて、少し経つと馬車は目的の場所まで着いた。時計を確認すると、約束の時間までまだ少し余裕がある。
(まあ、いいか。近くで待っていよう)
馬車から降りて、エミリアを待つ。行き交う人々をぼんやりと眺めていると、ふと仲睦まじい様子で歩く男女が目に入った。
腕を組み、とても幸せそうな顔をしている。あのふたりも、いま「デート」の最中なのだろう。
(デート、かぁ……)
前世でも、女友達と「デート」と言って出かけることはあった。いつもと変わらない、特別なことがなくてもそう言って楽しんだものだ。
だから、あの言葉に他意はないとは思う。それでも、わざわざデートと強調されたことが、少しだけ気になっていた。
ーーなにか裏があるのではないか、と。
(……って、ダメダメ。すぐ嫌な方向に考えちゃう)
今日の目的は、エミリアのことをちゃんと知ること。何が好きで、何が嫌いか。わたしのことを本当はどう思っているのか。
(あとは、そうね……彼女が、わたしと同じかどうかってことを聞きたいな)
もし、エミリアが自分と同じ転生者だったら……?
わたしからすると、仲間ができてとても嬉しい。だけど、向こうもそう思ってくれるかは分からない。
(だから、聞くのがちょっと怖いのよね)
ふぅとため息をついて、俯く。暇を持て余したわたしは、足元に転がる小石を軽く蹴ってみた。
(そういえば、レインとはデートをしたことないな。まあ、したくとも出来ないのだけど……)
内緒の関係というのも、なかなかに厄介だ。でも、いつかわたしたちのことが認められて、堂々とデートできるようになれたら嬉しい。
(だから、その日がきたらわたしからデートに誘ってみようかな)
そんな幸せな未来を想像していると、遠くの方からわたしの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「アナスタシア様!」
顔を上げると、こちらへとかけてくるエミリアの姿が見えた。
いつもと違う結んだ髪、白と水色のスカートがふわりと揺れている。やけに見覚えのあるその姿に、わたしは思わず目を見開いた。
(そ、その格好はーー!)
エミリアが攻略対象者たちとデートするときの鉄板服じゃないか。スチルでは何度か見たけど、実際に目の前にすると迫力が違う。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
エミリアは肩で息をしながら、少し乱れた髪を直した。その様子すらも、ゲームでのデートイベントを思い出させる。
「エ、エミリア……今日は、いつもと雰囲気が違うのね」
「……その、アナスタシア様とのデートなので、つい気合が入ってしまいまして……」
少し照れたように頬を赤らめながら、そんなことを言われてしまえば、胸の奥がきゅんと高鳴った。
(かわいい。かわいすぎる。これがヒロインの力なの……?!)
あまりのときめきに、わたしは何度も「かわいい」と口にした。すると、エミリアは「よかった」とほっとした表情を見せる。
「アナスタシア様にそう言っていただけると、とても嬉しいです」
そう言うと、エミリアは眩しいぐらいの笑顔を向けてくれる。そんな彼女の姿を見ていると、先ほどまでの気持ちはどこかへ行ってしまった。
(……こういうところが、レインにお人好しと言われてしまうのかもしれないけど)
「……アナスタシア様?」
きょとんとした表情を浮かべるエミリアに「なんでもない」と言って、首を振る。
そして、わたしは彼女の手を取ると、にっこりと笑って見せた。
「エミリア。今日のデート、たくさん楽しみましょうね!」
なにせ、今日はデートなのだ。
疑惑や不安は一旦は置いておいて、今日という一日をめいいっぱい楽しもう。
その気持ちで、エミリアの手を取れば、彼女も強く握り返してくれた。
「ええ、もちろんです!」
「よし。じゃあ、まずはお買い物から行きましょう!」
そのまま手を繋いで、わたしたちは仲良く歩き出した。




