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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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エミリア・セラフィーネ-5


 やがて、少し経つと馬車は目的の場所まで着いた。時計を確認すると、約束の時間までまだ少し余裕がある。


(まあ、いいか。近くで待っていよう)


 馬車から降りて、エミリアを待つ。行き交う人々をぼんやりと眺めていると、ふと仲睦まじい様子で歩く男女が目に入った。


 腕を組み、とても幸せそうな顔をしている。あのふたりも、いま「デート」の最中なのだろう。


(デート、かぁ……)


 前世でも、女友達と「デート」と言って出かけることはあった。いつもと変わらない、特別なことがなくてもそう言って楽しんだものだ。


 だから、あの言葉に他意はないとは思う。それでも、わざわざデートと強調されたことが、少しだけ気になっていた。


 ーーなにか裏があるのではないか、と。


(……って、ダメダメ。すぐ嫌な方向に考えちゃう)


 今日の目的は、エミリアのことをちゃんと知ること。何が好きで、何が嫌いか。わたしのことを本当はどう思っているのか。


(あとは、そうね……彼女が、わたしと同じかどうかってことを聞きたいな)


 もし、エミリアが自分と同じ転生者だったら……?

 わたしからすると、仲間ができてとても嬉しい。だけど、向こうもそう思ってくれるかは分からない。


(だから、聞くのがちょっと怖いのよね)


 ふぅとため息をついて、俯く。暇を持て余したわたしは、足元に転がる小石を軽く蹴ってみた。


(そういえば、レインとはデートをしたことないな。まあ、したくとも出来ないのだけど……)


 内緒の関係というのも、なかなかに厄介だ。でも、いつかわたしたちのことが認められて、堂々とデートできるようになれたら嬉しい。


(だから、その日がきたらわたしからデートに誘ってみようかな)


 そんな幸せな未来を想像していると、遠くの方からわたしの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。


「アナスタシア様!」


 顔を上げると、こちらへとかけてくるエミリアの姿が見えた。


 いつもと違う結んだ髪、白と水色のスカートがふわりと揺れている。やけに見覚えのあるその姿に、わたしは思わず目を見開いた。


(そ、その格好はーー!)


 エミリアが攻略対象者たちとデートするときの鉄板服じゃないか。スチルでは何度か見たけど、実際に目の前にすると迫力が違う。


「お待たせしてしまい、申し訳ありません」


 エミリアは肩で息をしながら、少し乱れた髪を直した。その様子すらも、ゲームでのデートイベントを思い出させる。


「エ、エミリア……今日は、いつもと雰囲気が違うのね」

「……その、アナスタシア様とのデートなので、つい気合が入ってしまいまして……」


 少し照れたように頬を赤らめながら、そんなことを言われてしまえば、胸の奥がきゅんと高鳴った。


(かわいい。かわいすぎる。これがヒロインの力なの……?!)


 あまりのときめきに、わたしは何度も「かわいい」と口にした。すると、エミリアは「よかった」とほっとした表情を見せる。


「アナスタシア様にそう言っていただけると、とても嬉しいです」


 そう言うと、エミリアは眩しいぐらいの笑顔を向けてくれる。そんな彼女の姿を見ていると、先ほどまでの気持ちはどこかへ行ってしまった。


(……こういうところが、レインにお人好しと言われてしまうのかもしれないけど)


「……アナスタシア様?」


 きょとんとした表情を浮かべるエミリアに「なんでもない」と言って、首を振る。

 そして、わたしは彼女の手を取ると、にっこりと笑って見せた。


「エミリア。今日のデート、たくさん楽しみましょうね!」


 なにせ、今日はデートなのだ。

 疑惑や不安は一旦は置いておいて、今日という一日をめいいっぱい楽しもう。


 その気持ちで、エミリアの手を取れば、彼女も強く握り返してくれた。


「ええ、もちろんです!」

「よし。じゃあ、まずはお買い物から行きましょう!」


 そのまま手を繋いで、わたしたちは仲良く歩き出した。



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