エミリア・セラフィーネ-4
◇◇◇
迎えた当日。
わたしは緊張と不安で一睡もできなかった。
「……お嬢様、大丈夫ですか?」
青白い顔で支度をするわたしを見て、メアリーが心配そうに声をかけてくれる。
「ええ、大丈夫よ」
「とても大丈夫には見えませんが……ひどい顔色ですよ」
メアリーの言うとおり、鏡に映る自分の顔はひどいものであった。
だけど、わたしは「大丈夫だ」と念押しをする。
「心配かけてごめんね。でも、本当に大丈夫なの! 昨日、なかなか寝つけなくて……」
「あら、そうだったのですね。なにかお悩み事が?」
「あー、えっと、今日なにを着ようかなって悩んじゃって!」
誤魔化すように言うと、メアリーは「確かに、久しぶりのエミリア様とのお出かけですものね」と呟いた。
「そうなの。……それに、今日はいつもよりちょっと気合を入れたくて」
「気合い、ですか?」
なんの気合いだと言わんばかりに、目を瞬かせているメアリーに向かって、わたしはにやりと笑った。
「ええ。だって、今日はデートだからね」
「まあ!」
「だから、メアリーも協力してね!」
その言葉に、彼女は「お任せください」と力強く頷いてくれる。そして、二人でああでもないこうでもないと言いながら、必死にドレスを決めたのだった。
屋敷を出ると、馬車の近くにレインが立っていた。小走りで彼の元へと駆け寄ると、待ちくたびれたと言わんばかりに声をかけられる。
「随分と遅かったですね」
「ちょっと、準備に手間取っちゃった」
えへへ、と笑うと冷たい視線を向けられてしまう。だけど、仕方ない。同性同士で出掛ける方が、服装とかにも気をつかうものなのだ。
(まあ、結局シンプルが一番だと無難なドレスに落ち着いたけど……)
少し地味だっただろうかと不安になっていると、レインに「こっちへ来て」と呼ばれる。
「どうしたの?」
「右手、出してください」
言われたとおりに右手を差し出すと、カシャンと音を立てて、腕輪が付けられた。
突然なんだと思いながらも、右手につけられたそれを見て、わたしは目を見開く。
「……これって、あの腕輪?」
わたしが市場で買った筋力が十倍になる腕輪。どうせ意味がないからと、その辺に放置しておいたのに。
「一応、防御魔法もかけておいたから付けていきな」
「レイン〜〜っ!! ありがとう〜〜!」
喜びのまま抱きついてしまいそうになったが、ここでは人目があるので、ぐっと堪えた。
それでも嬉しくて、だらしない笑みを浮かべながら何度も腕輪を眺めてしまう。
「そんなに嬉しいですか?」
「もちろん。ねえねえ、無事に帰ることができたら、レインのお茶が飲みたいなあ」
「別にお茶ぐらい、いつでも淹れますけど」
「やったぁー!」
約束ね、と小指を差し出すと、レインは「はいはい」と呆れながらも、自身の小指を絡めてくれた。
「というか、無事に帰れたらとか……そういう縁起でもないこと、言わないでくれます?」
「たしかに! 不吉だったね!」
そう言って「あははは」と笑えば、「笑いごとじゃない」と怒られてしまった。
「安心して、ちゃんと怪我ひとつなく帰ってくるから!」
そう言うと、わたしは手を振って馬車へと乗り込む。途中、こちらを見つめるレインと目が合ったので、安心させるようにウインクをしておいた。
(……おいおい、嫌そうに目を逸らすんじゃないよ)
まったく、失礼な男である。
やれやれと思いながらも、一人になった馬車の中でわたしはふと気がついた。
(……もしかして、さっきのって死亡フラグ立てちゃった?)
いやいや、気のせいだ。大丈夫、大丈夫。
それでも少しだけ不安になって、わたしは馬車に揺られながら、自身の無事を必死に祈ったのだった。




