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ラスボス悪女に転生した私が自分を裏切る予定の従者を幸せにするまで  作者: 菱田もな
第三章

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エミリア・セラフィーネ-2



「まあ、せいぜい気をつけろ。最悪、骨ぐらいは拾ってやる」

「他人事すぎませんか?!」


 恨み言を言いながら、図書室から出る。

 すると、扉の先にはまさかの人物が立っていった。


「エミリア……」


 名前を呼べば、彼女はにっこりと笑った。


「アナスタシア様の姿が見えなかったものですから、探してたのです。……でも、まさかお二人が一緒だとは思いませんでした」


 そう言うと、エミリアはわたしとユリウスを交互に見つめる。その冷ややかな視線と声に、手には汗が滲んだ。


「じゃあ、僕はこれで……」


 足早にその場を去ろうとするユリウス。

 しかし、逃がすまいとわたしは彼の服の裾を思い切り掴んだ。


「なっ」


 突然のことに、彼は驚いたような声を漏らす。


(先輩だけ逃げるなんて許さないですよ)

(お前とあの女の問題だろ? 俺を巻き込むな)

(困ったことがあれば助けてくれるって言ったじゃないですか!)


 こそこそと話をしていれば、わざとらしい咳払いが聞こえてきた。


「相変わらず仲がよろしいのですね、お二人とも」

「えっ?!」

「今日だけでなく、今までにも何度か図書室でお話しされてますよね」


 まさか、知られているとは思わなかった。


「それはその……たまたまというか?」

「たまたま、ですか。わざわざ人目につかない端っこの方でお話しされてるのに?」


 その言葉に、何も言えなくなってしまう。

 まるで、浮気現場を見られてしまったかのような気まずさだ。


(しかも、この詰め方……どことなくレインに似ていてすっごく怖い)


 本人に言ったら怒られそうなことを考えながらも、わたしはどうしようかと頭を悩ませていた。


(とりあえず、わたしたちの間には何もないことを伝えなきゃ)


 そう思い、隣のユリウスを肘で小突く。すると、彼はため息を吐きながら私を指差した。


「こいつは、テオドールの妹だからな。何かと気にかけてしまうんだよ」


 素のままで話し始めたユリウス。

 エミリアにはすでに正体がバレているから、猫被りも意味がないと思ったのだろう。


「そ、そう! シュローダー先輩はお兄様の友人だから、世話を焼いてくれてて!」

「ああ。だから、それ以上に深い意味はない」


 その言葉に勢いよく何度も頷けば、エミリアがわずかに目を細める。

 いつもはキラキラと輝いて見える桃色の瞳が、やけに冷たくて、とても怖かった。


「本当に深い意味はないのですね?」

「ああ。……もういいか? 痴話喧嘩なら二人でやってくれ」

「痴話喧嘩って……!」


 別に、そんなのじゃないのに。

 だけど、ちゃんと否定をする前にユリウスは去っていってしまった。


 その場に残されたわたしとエミリア。

 重苦しい空気の中、わたしはエミリアがどうしてこんなに怒っているのか疑問でいっぱいだった。


(そんなに、図書室でのあの一件を気にしているのだろうか)


 だけど、それだけじゃない気がした。


「エミリアは、わたしと先輩が仲良くしているのが嫌なの?」

「嫌、というわけではないのです。ただ、納得できないというか、解釈違いといいますか……」

「解釈違い?」


(すっごい馴染みのある言葉が出てきたな)


 前世で何度も口にしていたその言葉を、まさかここでも聞くことになるとは思わなかった。


「ええ。アナスタシア様があの方を利用する関係なら応援できるのですが、自然体で仲良くしているのを見ると、悪寒が走りまして」

「お、悪寒……?」

「ですが、これも全て私の我儘なので我慢しようと思ってはいるのですが、どうしても仲睦まじいお二人の姿を見ると抑えられなくて……」


 そう言うと、エミリアは困ったように、それでいて悲しそうに眉を下げた。


 わたしがユリウスを利用するのはよくて、仲良くするのはダメだなんて。

 一体、わたしはどんな女だと思われているのだろうか。


(だけど、わたしは今も、これからも、ユリウスを利用するつもりはない)


「エミリアの理想と違うのは申し訳ないけど、わたしはこれからも先輩を利用するつもりはないよ」


 はっきりとそう告げると、エミリアはふっと笑った。


「……ええ。アナスタシア様……貴女様なら、そう言うと思っていました」

「な、なんかごめんね?」

「いえ、いいのです。私が勝手に思っていたことなので……」


 そう言いながらも、エミリアは眉を下げたままだ。

 別にこちらが悪いことをしたわけではないが、その

表情を見ていると胸が痛む。


「お詫びに、何か今度プレゼントするわ。あまり高価なものは難しいけど……どうかな?」


 わたしにできる範囲であれば、叶えたい。

 そう思って口にした言葉だったが、返ってきたのは予想外の反応だった。


「いえ。贈り物は必要ありませんよ」

「……そ、そっか」


 即座に否定されてしまった。

 しかし、彼女は続けて「その代わり」と口にする。


「私と、今度デートをしてくださいませんか?」

「デート?」

「ええ。私とアナスタシア様のふたりきりで……駄目でしょうか?」


 エミリアと二人で出かけるなんて、今までに何度かしたことある。わざわざデートなんて言っているけど、いつもと変わらないだろうと。


 そんな軽い気持ちで、わたしはこくりと頷いた。



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