第50話 今、君を抱く理由
深い眠りの中、世未は不思議な霧の世界で迷っていた。
ジョーの声に導かれ、仲間たちのもとへと戻ってくる。
そして再び目を覚まし、あたたかな再会の時を迎えた――。
それから皆揃ったところで、土の国王へ謁見しに行くこととなった。国王は満足そうな笑みで私たちを迎えてくれたのだ。
「世未殿、無事であったのじゃな! 一時は心配しておったが、本当に無事で良かった」
涙を浮かべながら喜ぶ国王の姿に、私は少し気恥ずかしさを覚えた。
「あのっ、私、色々とご迷惑をおかけしたようで……本当にすみませんでした!
戦いの中で多くの人に助けられて……迷惑をかけてしまったと思います」
深く頭を下げて謝罪をする。
「頭をあげよ、世未殿。土の国の民も皆喜んでおる」
「ありがとうございます……!」
「国王殿、私たち火の国イグナと協定を結んで頂けませんか?」
横からルロンド隊長が話を持ち掛けてきた。その提案に、土の国王はすぐに頷いた。
「今回、土の国は火の国との連携を踏まえて、改めてお互いの力が必要だと感じた。ワシからも喜んで、その提案を受けようではないか」
ルロンド隊長と土の国王は手を取り合い、握手を交わす。そして国王の側近兵からルロンド隊長に、土の国の腕章を授与される。
「これより、火の国との協定を結ぶ。お主はその代表役となってもらう」
「もちろん、謹んでお受けします」
ルロンド隊長が火の国代表となった今、第5部隊の存在も大きくなっているのかもしれない。これで帝国軍の支配する国は1つも無くなったのだった。
♦♦♦
城を出て、外の風を浴びたと思ったら、数人の子供たちに囲まれた。
「お姉ちゃん、この間はりんごありがとう。これ、僕たちからのお礼、受け取ってほしい」
それは私たち人数分のりんごだった。
「ううん、あなた達が食べていいのよ?」
世未は目の前に居る痩せ細った子どもたちの食料を受け取ることを拒んだ。
「あのね、そこに居るお兄ちゃんに、水の魔法で食物を育ててもらったんだ!
だから、今は……ほら! 木にりんごがたくさん実ってるんだ!」
「本当だ……!」
その光景を目にした世未は、感動して涙が出そうになった。
あんなに枯れていた大地が、今は実りに満ちている……それだけで、心がふわっと軽くなった。
「ディーン、やるじゃない。見直した」
世未は感動のあまりディーンを褒めると、ディーンは照れくさそうにしている。
「べ、別に、こんなの余裕だもん! 僕は天才だからね!」
「ふふっ、可愛いところあるんだから」
「お姉ちゃん、もっと褒めて?」
世未は優しくディーンの頭を撫でる。
「……もっと!」
「えっ?」
「僕とぎゅーっとハグして?」
「え~っ!?……もう、仕方ないなぁ――」
一瞬だけ、世界が止まったような気がした。
こんな風に笑える日が来るなんて……気づけば、頬も心も緩んでいた。
♦♦♦
ルロンドは、楽しげな空気を少し離れた場所で見つめていた。
無事でいてくれたことが、こんなにも嬉しいなんて──
そう思った瞬間、胸の奥がざわめいた。
「……いや、違う。これは……」
♦♦♦
世未は母性をくすぐられたような気持ちになり、ハグをしようとしたその時、ジョーが勢いよく2人の間に止めに入った。
「おい! マセガキ、調子乗んなって言ってんだ――」
とジョーが言いかけたその時、ルロンド隊長が大声で「やめろ!」と叫んだ。
ルロンド隊長は世未を自分の元へ連れて来て、そのまま抱き締めた。
「……っ!?」
世未は何が起こったか分からず軽くパニックを起こしている。
抱いたまま、ルロンドは自分でも理解できない衝動に戸惑っていた。
(なぜ……手が、勝手に動いた……?)
「たいちょー、ずるいっ! 僕も!」
「お前には渡さん!」
我に返った世未は、やっと今の状況を把握できた。
「ちょ……ちょっと待ってくださーい!!」
一体どういうこと!? 何が起きてるの?
目の前で起きていることに、頭が追いつかない。
でも、嫌なわけじゃない。むしろ――なに、この気持ち?
世未は大声を挙げたため、その声に驚いたルロンド隊長はそのまま腕の力を緩めた。
「……俺は……何を……」
「もう、ルロンド隊長! いきなり何なんですか! びっくりしたんですからね?」
「……すまない」
ルロンドは、彼女の驚いた顔を見てようやく我に返った。
なぜあの瞬間、腕が動いたのか――説明はできない。
けれど、たったひとつ、確かに感じたものがある。
「この手を離したくない」――そんな想いが、胸の奥で静かに芽を出していた。
それが“隊長としての責務”なのか、それとももっと個人的な感情なのか、
今はまだ答えは出ない。けれど、彼の中には、もう始まりかけている何かがあった。
♦♦♦
「はいはい、もうその辺でおしまい」
パンパンと両手を叩きながらアディは呆れた顔をしている。
……そんな風にからかわれるのが、今はくすぐったくて、でも……うれしい。
皆の温かさに囲まれて、私は――
あの暗闇の中で聞こえた、たった1つの声を思い出す。
(……帰ってきてよかった、そう思っていいよね?)
「アディ、なんだか気を遣わせちゃってごめんね?」
「世未は何にも気にしなくていいさ。隊長、ちょっと後で話あるから。……ちゃんと、ね?」
アディは宿屋の裏を指差し、合図している。仲の良い2人のやり取りを見て、思わず世未は笑顔がほころんだ。
「……世未ちゃん、その笑顔は反則だったでしょ? 今すぐ封印しましょ♪」
そんな風にからかわれるのが、今はくすぐったくて、でも……うれしい。
「ら、ラトってば、もう……!」
「世未、こっち向いて?」
ジョーは私の顔を強引に引き寄せ、自分の方へ向かせる。
「うん、やっぱり可愛い。世未は俺のもの!」
「……ちょっと、ジョー。皆が居る前で恥ずかしいよ!」
けれど、本当は少しだけ、うれしくて。
“守られている”という安心感に、胸が熱くなる。
(誰かがずっとそばにいてくれる。そんな安心感、昔は知らなかった)
ジョーは世未の体を抱き締め、上機嫌だ。
「お前たち、いつの間にそんな仲になったんだ?」
ルロンド隊長が鋭い目付きでジョーを睨む。
「隊長が見てない間ッスよ♪ もうガキのままでいらんねーんだよ、俺も」
ルロンド隊長はしばらく黙っていたが、ふと世未のほうに目をやった。
無邪気に笑うその横顔に、ほんのわずかに表情が揺れる。
♦♦♦
「……彼女を守りたいと思ったのは、隊長として、か。それとも……」
答えは出さず、ただその場に立ち尽くした。
胸の奥が、少しだけ、熱を持っていた。
それは怒りでも使命感でもない、もっと曖昧で、けれど確かなものだった。
……その変化に気づく者は、誰もいなかった。
それを自覚したことで、彼の中の何かが静かに軋んだ。
それが何を意味するのか、彼はまだ言葉にできなかった。
だが、心はもう知っていた。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
仲間と笑い合う日々が、こんなにも尊く思えるのは、きっとそれが「当たり前」ではないと知ったから。
次の展開もぜひ見守っていただけたら、嬉しいです。




