実験報告08 巨人征伐
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「イユ、振り切れる!?」
『申し訳ありませんが、難しいです』
「また増えました! 一体……?」
ドクターの研究室を後にしたリスティたちは、引き続きナノマシン散布装置がある予測地点への旅を続けていた。その予測と歩みが正しいことを物語っているように、散布されている《雪》はさらに強まっていった。
足場、視界、ともに最悪の状況ながらゆっくりと《大型四輪》は走っていくが、いつしかそんな悠長な状況ではなくなってしまっていた。いつかリスティも見たことがある、兵士を輸送するための輸送車両が、数台リスティたちを追うように走ってきたのだ。
呼びかけにも反応せず、外の景色も相まって、明らかに友好的な雰囲気ではない。降りしきるナノマシンに振り切ることも出来ず、ついには行く手を阻むように前方からも現れた。
「マキナさん!」
「……イユ、やるわよ!」
『了解しました』
そうして、いくつものことが連続で起きた。前方から現れた輸送車両に衝突しないように《大型四輪》は大きく横にそれていき、リスティは衝撃に耐えながらも衣装棚の扉を開ける。すれ違った輸送車両の中身は、満載された《人型機械》――ナノマシンに侵された人間たちのなれの果てだったからだ。
《大型四輪》の動きが鈍ったとみるや、輸送車両に入っていた《人型機械》たちが中から生ける屍のように現れ、無数の敵としてリスティたちに襲いかかる。急ぎマキナは機械巨人への換装を始め、イユは再び《大型四輪》を走らせようとするものの、輸送車両によって囲まれ上手く動くことは出来ずにいた。
そして残るリスティは、彼ら《人型機械》の声を聞いた。ナノマシンによって機械化した右腕から。
「迎えに来た……?」
「え?」
「迎えに来たって言ってます……あの人たち」
「でも友達になりに来たようには見えないわね!」
どうやらリスティにしか聞こえていない彼らの言葉、それを受け取ることはなく後部扉を蹴破りながら、マキナは勢いよく発進する。迫っていた《人型機械》の頭部を殴り飛ばしながら、発射された両手斧を受け取って《大型四輪》には近づかせまいと奮戦を始める。
リスティもついていきたいところではあったが、《雪》まみれのこの天候でリスティが外に出れば、あっという間に《人型機械》の仲間入りだ。ひとまずマキナが出ていった後部扉を閉めながら、何かできることはないかとリスティは車内を見ると、イユの操るマジックハンドから何か手渡される。
耳につける機械――以前、マキナに聞いたことがあった。連絡用のマイクとヘッドホンという機械だ。
『車両の操作に専念しますので、マキナをよろしくお願いします』
「はい!」
《人型機械》たちから逃れるために駆動する《大型四輪》から振り落とされないようにベルトで固定しながら、リスティは雪景色の中で戦うマキナの姿を見逃すまいと目に捉え続けた。
《大型四輪》を狙おうとする《人型機械》たちの数はおおよそ四十ほど。これだけの数の犠牲者がいたこと、何故か集団的にリスティを襲ってきたこと、迎えに来たという言葉の真意、気になることは山ほどある。ただしそれを考えるのは今ではない。
「敵、狙いをマキナさんに絞りました!」
ナノマシンによって生成された右腕から発せられる、彼ら《人型機械》の通信。盗聴できるのならばこれ幸いと、リスティはマキナに伝えていく。最初は《大型四輪》を狙っていた彼ら《人型機械》だったが、潰せという単純な命令とともにマキナに狙いを変える。
リスティの通信から敵の動きを読んだのか、《人型機械》たちの先陣はマキナの振るった両手斧にまとめて両断させられた。しかしてそれは一部というのもはばかられるもので、恐怖を感じない《人型機械》たちは、目の前で仲間が両断されようが行軍を止めることはなく。
愚直に向かってくる敵を返す両手斧でまたも両断するが、斧を振るう速度より《人型機械》たちが殺到する速度の方が勝っていく。それらを両手斧から分離させた斧と持ち手の棒を片手ずつで振り回してしのぎ、いったんローラーを走らせ距離を取る。
「槍を!」
リスティの声に二人が反応し、輸送車両とカーチェイスを行っていた《大型四輪》が射出した機械槍をマキナがワイヤーで絡めとって。そのまま機械槍を先端に巻き付けたワイヤーを横一文字に振りぬき、当たった《人型機械》たちを粉砕していく。
近づいてきた敵には片手斧、遠くの敵にはワイヤー槍でマキナはどうにかしのいでいて。しかしそこに、《大型四輪》についていた輸送車両が向かっていった。
「背後から車両!」
背後から轢き潰す算段だったのかもしれないが、マキナはローラーを使ってすばやく輸送車両の側面に退避する。そのまま斧でタイヤの一角を切り裂き、コントロールを失った輸送車両は横転し、マキナを狙っていた《人型機械》ともう一台の輸送車両を巻き込んでいく。最後に動力部に斧を投げつけると、《人型機械》と輸送車両二台はもろともに爆発した。
「よし!」
思わずリスティは通信とは関係のない言葉を発してしまうものの、外の景色はすぐにリスティの喜びを打ち消すこととなった。爆炎の向こう側から現れる、《人型機械》たち。さらなる増援を前にして、マキナは失った両手斧の代わりにワイヤーを巻き取って機械槍を両手に構える。
そして新たに現れた《人型機械》たちは、先ほどまでのただ愚直に目標に向かっていくことしかできなかった者たちとは違い、明確にマキナを包囲しようとしていた。マキナも包囲から逃れようとローラーを走らせるが、まるでマキナがどう動くか分かっているかのように、徐々に包囲を狭めていった。
「気をつけてくださいマキナさん、何か違う……指揮者がいるかもしれません!」
明らかに動きの違うそれらに、リスティは彼らを指揮する上位者がいると予測をたてたが――その通信は間違いだった。マキナが指揮者を探そうと辺りを観察したその一瞬、《人型機械》たちが一斉にマキナへ襲いかかった。まるでマキナの隙をうかがっていたように。
それでもマキナはしっかり反応してみせ、包囲されないようにあえて《人型機械》たちの一角に向かっていくと、数体にまとめて乱れ突きを放つ。そのどれらもが《人型機械》たちの急所を寸分違わず抉っていき、包囲の一角を崩した――かに見えた。
乱れ突きが命中した最後の一体、もっとも威力が弱まったのを狙った《人型機械》が、大破する直前まで自身に炸裂した機械槍を抜けないように力の限り引っ張ったのだ。もちろん力比べでマキナが負けるはずもないが、その抵抗はマキナが次の行動に移るのを遅らせた。
あっという間に四方八方を取り囲まれたマキナの判断は早く、すぐさま空中へ跳躍した。
「跳んじゃダメです!」
――リスティの警告が間に合わないほど、早く。
マキナが跳躍するより先に、《人型機械》が数体、仲間を踏み台にすることでマキナより高く跳んでいた。身動きの取れない空中で背後を取られながらも、何体かは機械槍を駆使して撃墜していくが、それも限界で。取りこぼした数体がマキナの背中に取りつくと、そのまま地面に墜落した。
受け身を取って着地の衝撃を和らげることすらできず、仰向けのまま《人型機械》たちの重しつきで地面に叩きつけられ、地面と接地していたマキナの身体はバラバラになって。
「マキナさん!」
それでも、リスティの泣きそうな叫び声にマキナは立ち上がる――ことは出来なかった。倒れたマキナに対して、《人型機械》たちが狂ったような追撃を始めたのだ。
ある者は装甲を引っぺがし、ある者は打ち捨てられた機械槍で風穴を空け、ある者は足をもごうと関節を痛めつけ、ある者は頭を踏みにじり、ある者は露出した女性的な部分を食いちぎり、ある者は拷問でもしている気なのか指を一本ずつへし折っていき、ある者は火で炙り、ある者は首を力の限り絞めていき、ある者は――と、あっという間に機械巨人はその場から消え失せ、残ったのは両腕両足を失い、達磨のようになったマキナ本体だった。
「あ、ああ、あああああああああっ!」
『リスティ、落ち着いてください』
「分かってます! 分かって……いますが……!」
「そうだよリスティ……落ち着いて……」
「マキナさん! マキナさんは大丈夫なんですか!?」
「あんまり、大丈夫じゃ――え?」
そんなマキナの姿に、リスティは自制心を失って外に駆け出そうとしてしまう。ベルトで固定していなければ、本当に《雪》まみれの外側に飛び出て《人型機械》となっていたことだろう。
ただし幸いなことに、マキナは見ていられない状態ながらも無事なようで、リスティのつけたヘッドホンから声が響く。どうにか助けないと、とリスティが考えた瞬間、《人型機械》たちが予想外の行動に出た。
《人型機械》たちはまるで戦利品のようにマキナを持ち帰ると、残っていた輸送車両へと放り投げたのだ。そのまま輸送車両はマキナを連れ去るように何処かへ走り去っていき、いつしかヘッドホンとの接続もノイズまみれになってしまう。
「……ごめんね、リスティ――」
――最後に聞こえたマキナの言葉は、どうしようもない謝罪の言葉だった。
「マキナさん! マキナさん!?」
『リスティ。マキナにばかり構ってはいられません』
マキナを倒した包囲しつつあえて空中に逃がすことで、身動きの取れない空中で背後から襲う戦術。あれはリスティの故郷で使われていた戦術であり、故に間に合わなかったとはいえリスティはマキナに警告できた。そもそも鮮やかすぎる包囲や隙のつき方といい、明らかに敵の指揮者はマキナの動きとリスティの指示を読んでいた。
リスティの故郷の戦術を知り、なおかつマキナの動きを読める人物。そんな相手は一体何者なのかと、様々な思いを巡らせながら。無駄だと分かっていても呼びかけを続けるリスティを現実に引き戻したのは、イユの言葉と、狙いをリスティたちにした《人型機械》たちの姿だった。
――そして、連れ去られた先でマキナは、その指揮者の正体を見ることとなった。マキナが見間違えるはずもない、その姿は。
「リスティ……!?」
「……はい。お久しぶりです、マキナさん」
後半へ続く




