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その英雄、機械仕掛けにつき  作者: 24
第二部 雪下に狂う
22/28

実験報告04 人間の身体、機械の身体

マキナ視点

「リスティ、眠らないの?」


「いえ、その……」


「……やっぱり昼間のこと気にしてる?」


「……はい」


 体内にナノマシンを仕込まれた男のことからしばし。マキナたちは爆発騒ぎによって集まってきた《機械》を避けつつ、どうにか奥まった廃墟群に身を隠した。


 そのまま夜を迎えたにもかかわらず、リスティは眠ることなく月を見上げていた……まるで、月の光を動力源とする《機械》のように。マキナは気づかれないようにリスティの手を見れば、機械化の症状は手首から腕まで進行しつつあった。


「……厳しいことを言うようだけど、あれが機械の身体の末路。リスティも分かってるでしょ?」


「はい。ですがマキナさん……」


「今日も疲れたでしょ? 早く寝ちゃいなさい……寝た方が、薬も効くから」


「……分かりました。お休みなさい、マキナさん」


「おやすみ。怖い夢を見たら、夢の中でも私を呼ぶのよ?」


「……はい、ありがとうございます」


 戦乙女や平和な町、《機械》の身体を持った者の末路と悲劇は、リスティにもよく分かっている筈にもかかわらず。何か機械の身体について考えているらしいリスティを、マキナは話を打ち切って寝かしつける。


 リスティは少し不満げな表情を見せたものの、毛布を被って眠っていく彼女を、マキナは毛布の上から優しげに叩いて。眠る邪魔にならないように、マキナ本人は《大型四輪》の外に出ていった。


「ねぇ、イユ」


『はい?』


「リスティが何を考えてるか、わかる?」


『あいにく僕にそんな機能はついていません。ただ、マキナは以前と比べて――』


「今は私の話をしてるんじゃないのよ」


『……失礼しました』


 車外での見張りがてら、リスティには聞かれたくない話がてら。夜のビル風が吹く《大型四輪》の外で、イユと密談をはじめたところ、マキナの予想とは大きく違うものが返ってきた。


 苛立たしげに、おせっかいで口の悪いサポートAIにため息を吐きながらも、ただマキナはその言葉を認めるように頷いた。何も考えずにただ人間を助けていた昔のマキナに比べて、今は色々と余計なことまで考えてしまう。


 人間の身体と機械の身体。人間の心と機械の心。マキナが嫉妬に狂うほど手にいれたがっているものを、リスティは自ら捨てようとすら思っているのではないだろうか。


『後悔していますか?』


「聞いてくると思った」


『恐縮です』


「心にもないことを……後悔はしてないわ、リスティに会えたんだもの。ただ――」


 ――ただ、リスティは人間でマキナは《機械》だ。それはどうしようもないことであり、変えることが出来ない運命だ……だった。


 人間を機械化させる《雪》と呼ばれるナノマシン。アレがあれば、リスティもマキナと同じ《機械》となることが出来る……


『ただ?』


「……何でもないわ」


 ……そんな、ありえない考えをマキナは脳裏から振り払う。こんな自分のわがままで、リスティを機械の身体などにするわけにはいかない。


 そう、分かっているはずなのに。複雑な胸中という今までのマキナであれば理解できなかったものに感情を支配されたマキナに、その思考を打ち切るように銃声が聞こえてきた。


「イーユー」


『確認しました』


 どうやら思考回路がオーバーヒートした音ではなかったようで、イユから発砲音がした予測地点のデータが送られてくる。


 ただ銃声というのは、この世界では珍しい部類に入る。堅牢な装甲を持つ《機械》に対して銃では有効打にならず、よしんば有効なほど強力な銃があったとしても、メンテナンスもままならいこの世界において使えるような状態であることはまずない。


 よって銃が使われる状況とは、ある程度のメンテナンス用の設備が整った町での、対人間用ということになる。が、今マキナたちがいる場所はただの廃墟郡であり、近くにそんな場所があるわけでもない。


『向かいますか?』


「当たり前でしょ」


 以前までの人を助けるだけの機械としてではなく、人を助けること事態は辞める気はなかった。


 ずっとそうして生きてきて、まだ他の生き方が分からないという意味もあれば。またリスティのように大切に出来る人間に出会えるかもしれないという期待の意味もあれば。何があっても人を助けるリスティに、嫌われたくないという意味もある。


『では出発しましょうか』


「んー、それはいいわよ。私一人で試しに行っておくから。寝かせといてあげて」


 ……なんにせよマキナには、リスティのように無償で人を助けるような者にはなれない。だからこそリスティに嫉妬して、リスティを好きになって、マキナはこうしてここにいるのだけれど。


 ただそんなリスティは、よく無茶してしまうから。機械化の薬の件もあり、銃声の調査にはマキナのみで行くこととした。イユから無言の圧力を受け取りながら。



「さて、と……」


 それからしばし。イユの予測した地点にマキナは到着していた。ただし辺りを見渡してみたものの、特にそれらしきものが見当たらない。


 となれば移動したか建物の中か。何かが移動した跡は見当たらないため、ワイヤーを使ってナナメに倒れたビルの中に入っていく。


「ビンゴ……かな」


 そこには偶然にも、破壊された《機械》の残骸がいくつも鎮座している。それらは装甲を貫通して核のみを綺麗に破壊しており、そこから一般的な銃とは違う貫通力と狙い撃ちの腕前が分かる。


 そして弾痕には熱によって溶断されたような跡が残っており、《機械》を破壊したのは実銃ではなく、リスティの持つ《機械柄》のような光刃を発生させる銃――いわゆる《光線銃》であるらしい。


 そんなもの、もうとっくに滅んでいたと思ってたけど――そうマキナは警戒を強めながらも、上下左右が崩壊したビルの中を進んでいく。


『一度こちらに戻るべきでは?』


「どうして?」


『《光線銃》持ちが相手では今の貴方ではどうしようもありません』


「《機械》が撃たれてるのよ、あっちの姿じゃ逆効果じゃない」


『それだけですか?』


「……そうよ」


 半分は、本当だ。《機械》と敵対していることは確実な相手に、本来の姿で向かえば撃たれかねない。ただ《機械》の残骸しかないのは、《機械》としか敵対していないのか、たまたま人間を撃ち殺していないかの違いは分からないが。


 残り半分の理由は、やはり《大型四輪》で寝ているはずのリスティの存在だ。言葉には出さないがイユにもその理由は分かっているはずで、呆れたようにまたもやイユからの通信が途切れてしまう。


 そんなイユにマキナも何も言わず、増えていく《機械》の残骸を横目にビルを進むと、ある行き止まりにたどり着く。


 そこに残骸とともに座っていた一人の少女。この世界を生きていけるようには見えないが、辺りに他の人間の気配はない。たどり着いたマキナの姿に、少女は驚きに目を見開いた。


「たすけて……おねえちゃん……」


 そう弱々しく助けを求めた少女に、マキナはゆっくりと近づいた。ナノマシンに侵された人間にも見えず、リスティを相手に自称する『おねえちゃん』という言葉に――マキナは油断してしまう。


 マキナに助けを求めて伸ばしたはずの手は、マキナの手を掴む前に、金属製の重々しい銃が握られていた。


「――ッ!?」


 マキナがそれに気づいた瞬間、銃口がきらめきマキナの左腕部を肩から吹き飛ばした。次弾が発射される前に、マキナは大きく横に飛んでビルの窓を突き破りながら外に飛び降りた。


「おねえちゃん――」


 ビルから落下して助けを求める少女の声が遠ざかっていきながら、マキナは金属製の銃を持つ少女の姿を見た。その銃からは触手のような管が少女の背中や頭部に伸びており、《寄生型》の亜種のようなものに囚われているようだ。


 ただ、まだ生きている。そこまで分析するとともに、マキナは走ってきた《大型四輪》の屋根の上部に墜落した。


『ご無事ですか?』


「そう見える?」


『いいえ』


「なら、よろしく」


「マキナさん!」


 墜落した衝撃で身体が中破しながらも、どうにか転がって車内に入ろうとすると、騒ぎに起きたらしいリスティに受け止められる。中破したマキナの姿にリスティは絶句したものの、すぐに何をするべきか悟ると衣装棚の扉を開ける。


 それからは普段と変わらない。衣装棚から現れたマジックハンドが傷ついたマキナの身体をさらい、新たな――本来のと呼んで差し支えない強靭な装甲を身に纏った姿へと換装させる。


 最後に自ら仮面を被り、マキナから機械巨人への変貌を果たした。


「ありがとね、リスティ」


「あ、いえ、わたしは何も……それより、何か――」


「相手は銃だから、おねーさんに任せて。それじゃ!」


 そしてリスティと会ってから追加した、仮面を上下させる機能により、仮面を上げてリスティと会話して下げて戦場へ向かう。相手は銃使いであり、リスティには危険だと、マキナはただそうした事実を伝えただけだった。


「……わたしは、そんなにマキナさんのお役にたてませんか……?」


 故に。戦場へ向かったマキナには、リスティのそんな呟きが届くことはなかった。


『対象、こちらを補足し続けています』


 イユからの通信が示す通り、ビルの割れた窓からは機械巨人を常に捉える銃口が見えていた。ただし光線銃が相手とはいえ、今のマキナ――機械巨人ならば充分に避けられる距離であり、それは相手も分かっているのだろう。


 やみくもに撃つようなことはせず、タイミングをうかがっているようだ。長期戦の構えだが、少女を一刻も早く救いたい機械巨人側には、待ちと遠距離攻撃という選択肢はない。


 割れた窓に向けて跳躍。機械巨人ならばワイヤーを使わずともたどり着くことが可能であり、コンクリートの大地を踏み壊しながら、機械巨人は《光線銃型》へと向かっていく。


 ただ跳躍中に光線銃を回避する手段もまた、機械巨人には存在しない。そこを逃さず《光線銃型》に銃を向けられるが、機械巨人と同時にもう一つ《光線銃型》に向かうものがあった。


 《大型四輪》から射出された片手斧である。機械巨人を撃てば射出された片手斧が命中する――ことは少女の救出のためないが、《光線銃型》にそんなことが分かるはずもない――そして光線銃の弱点は、発射のために一瞬のチャージが必要になることだ。


 どちらかを撃てば、その隙にどちらかが命中する。それを狙った同時攻撃だったが、《光線銃型》は迷いなく最低限の出力で片手斧を撃ち落とした。


 そして機械巨人を破壊できるほどの出力を維持したまま、銃口を機械巨人に向けてきらめかせた。その一撃は確実に対象を破壊した――ただしその対象は、機械巨人ではなくその足元にあった、もう一つの片手斧だったが。


 ――《大型四輪》に設えられた射出口は二つ。一つの片手斧は囮として射出され、もう一つは機械巨人に向けて放たれていた……空中でもう一度、跳躍するための足場として。


 そうして空中で不可能なはずの再度の跳躍を果たし、銃撃を避けた機械巨人は、先程は墜落させられたビルに着地する。再チャージを始めるものの間に合うことはなく、《光線銃型》は少女から放れて触手型の管で機械巨人に攻撃する。


 ……まるで、少女を守るように。


「大丈夫?」


 それを機械巨人はこともなげに受け止めると、管を振り回して《光線銃型》の本体を地面に叩きつけ、粉々になるまで踏み潰した。


 完全に再起不能になったことを確認した後、機械巨人は仮面を上げてマキナとしての顔を少女に見せた。今まで《光線銃型》に寄生されていたにもかかわらず、少女は見るからに健康そのもので。


 意外に思いながらもマキナは少女に手を差し伸べたが、少女は差し出された手ではなく機械巨人の足へと抱きついた。


「……人殺し」


 マキナに、そんな呪いの言葉をぶつけながら。


「人殺し! 人殺し! 人殺し! どうしておねえちゃんを殺したの!」


「……え?」


「返して! おねえちゃんを返してよ!」


 マキナが少女の言葉を理解するのに、少しばかり時間がかかった。


 少女がずっと助けを求めていたのは、マキナではなくあの《光線銃型》――少女にとっての『おねえちゃん』に対してだ。きっとマキナにリスティと同様に、機械と人間とで心を通わせた者たちだったのだろう。


 だから少女はマキナこう叫ぶ――人殺し、と。


「ち、ちが……私……」


 そんなつもりじゃない、そう言い訳しようとマキナが身体を動かした衝撃に、少女はたまらずビルから押し出された。少女はマキナの足に抱きついていたのではなく、ビルから落としてやろうと必死で押し出していたのであり、急に支えを失ってバランスを崩し転倒した。


「あ――」


 手を差し伸べたところでもう遅い。少女は信じられないという表情のままビルから落下し、しばしの後にぐちゃりという鈍い音をマキナの集音機能を拾った。


 コンクリートの地面を見下ろしても、原型を留めない赤い肉塊があるだけで、マキナは呆然と立ち尽くすしかなく。マキナのように落下しても半壊で済むはずもなく、身体を換装するような術があるはずもない。


 人間の身体は、壊れればそれで終わりなのだ。そんな当たり前のことに打ちのめされるマキナに、イユからの通信が入る。


『あなたは、弱くなってしまった』

自分が出来ないが故に寝ることに全幅の信頼を置くマキナと悪夢にうなされる少女と眠らなくてもいいようにしてくれた光線銃型、みたいな話もあったんですが全カット

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