報告書はここで途切れている
エピローグです
報告書としてまとめられたデータはここで途切れている。内容から察するに、もはや書き手に報告する先があるわけでもないので、ここで報告書が終わっていても不思議ではない。
ただ報告書を書いた人物は、こうして過去の遺産を覗きみている自分から見ても、どうにも真面目な人物だということが伝わってくる。そんな人物ならば、もはや日課となってしまった報告書の執筆は、日記と化してでも続けるのではないだろうか……勝手な想像だが。
過去のデータが詰まったジャンクの集まりに手を伸ばし、その他のデータを探してみるものの、やはり書き手が似たデータは見当たらない。筆まめだというのがこちらの勝手な想像だったのか、それとも――
――書いていられない状況にでもなってしまったのか。
リスティール、と名前が紐付けられた報告書めいたデータを探しながら、横から過去の歴史データを引っ張り出してくる。この報告書が書かれたであろう歴史は、内容からして特定することは容易く、狙いとは対照的にすぐデータは拾うことが可能だった。
人間が自ら作り出した《機械》に駆逐された歴史。文明の欠片から食料や科学を漁り、どうにか生き延びていたような、人間の歴史の中でもとびきり悲惨な歴史。ここからこうして、自分のような人間が趣味でデータ漁りが出来るまで回復したのだから、ご先祖様には感謝しかない。
ただし気になることが一つ。こうして自分がいる原因である『人類再生計画』の前身に、クローニングによる人工再生という手段が考えられていたらしい。これはこの歴史の《内地》と呼ばれた地に残った科学で、人間に近しい存在を複製することで労働力としたらしい。
《機械》のように反逆こそしなかったものの、クローニングという手段で生まれた『人間モドキ』は極端に寿命が短かったそうだ。ただの労働力として使っていた《内地》ならともかく、『人類再生計画』には使えないということで没になったようだ。
……そんなデータが出ていて、自分は妙な気分に襲われた。リスティールと名乗る報告書の主は、報告書の内容を信じるならばクローニングで生まれた『人間モドキ』だ。結果として《内地》から離れることになった彼女の旅は、あまり続くことはなかったのだろう。
ならば報告書の主は、約束通り死ぬ前に相棒を殺して死んだのだろうか。それなら報告書の続きがないことも納得がいく――が、それならそれで、また新たな疑問が浮かび上がってくる。
もはやデータを探る必要もない、この《機械》全盛時代を終わらせる一因となった、『機械仕掛けの英雄』のことだ。自らも《機械》でありながら、同族の《機械》を破壊するように旅をして、人間たちの生存域を増やした英雄。
ただしその英雄がいるということは伝わっているにもかかわらず、肝心の英雄がどんな《機械》であったかというデータは残っていない、かなり不自然なものだ。何者かがあえて消したとしてか思えず、暇な歴史学者たちの話の種になっている。
しかしその『機械仕掛けの英雄』が、この報告書に記されたマキナなる人物であるならば。そんな歴史学者たちの鼻をあかせるかもしれないと、ジャンクデータ収集の手が知らず知らずのうちに強まっていく。
そしてジャンクデータの奥底に見つけたのは、ある動画データ。リスティールが書いた報告書とは何もかも形式が異なっており、どうしてこれがヒットしたのか分からないほどだ。そもそも文書ではないのだから。
しかしそんな異質さから目に留まり、その動画データを再生することにした。気の遠くなるような過去の時代の遺物だ、データは明らかに破損していて修復にしばし時間がかかる。
そして映し出されたのは、大型車の内部のようだった。中は生活スペースとなっており、二人の少女が不思議そうにこちらを――カメラを覗き込んでいた。
『こ、これで映るんですか?』
『うん。どう、イユ? 映ってる?』
『はい。恥を後世に残す趣味があるとは知りませんでしたが?』
『んー? 何か言ったかしらー?』
『ま、まあまあ……でもどうしたんですか、マキナさん。いきなり撮影なんて』
『ほら、前はリスティが旅のこと書いてくれてたじゃない? これから代わりに映像で残そうかな、なんて』
再生された動画データは、もはやホームビデオ以下のものだった。荒い画質に適当な撮影、そもそも機材が悪いのだろう。とはいえ《機械》が席巻していた時代としては、わりと撮れている方だ。
そんなことより重要なのは、動画に映る二人と一つのAIについてだ。リスティ、マキナ、イユ――あの報告書に記載された者たちであり、その容姿からしても間違いないだろう。困惑するリスティと、朗らかに笑うマキナという違いはあれど、どちらもカメラに向かって手を振っていた。
『そんなわけで、はいリスティ! 記念すべき初めての言葉をどうぞ!』
『え、わ、わたしですか?』
『決まってるじゃない。リスティがいなきゃ、この旅は始まらないのよ?』
『ええ。思えばマキナと二人旅など、今さらゾッとします』
『ほら、こんなこと言うデリカシーなしAIもいることだし』
『は、はあ……では』
コホン、と咳払いを一つ。リスティと呼ばれた、恐らく報告書の主である彼女がカメラに少し近づいて。
カメラに恐る恐る興味を持っていた先ほどまでとは違う、真摯な表情にリスティの顔は変わっていた。
『……多分、わたしたちはこれからまたひどい目に遭います。こんな世界ですから』
『そうでしょうね』
『でも多分、またこうして三人で旅を続けます。何があっても、絶対に……三人で生きています』
『リスティ……』
『……ありがとうございます――』
修復が不完全だったのか、映像がそもそも不完全だったのか。何が理由かは分からないが、映像はそこまでで途切れてしまう。
結局、歴史に残る『機械仕掛けの英雄』と彼女たちとの関係、報告書の主たるリスティの運命、最後のお礼の言葉は誰に向けてのものだったのか、彼女たちの旅はどんな結末を迎えたのか。何もかも理解できないままだ。ただ――
――その旅は、きっと彼女たちにとっては楽しいものだっただろう。
というわけで「その英雄、機械仕掛けにつき」、これにてひとまず第一部完、とさせていただきます。読んでいただきありがとうございました!




