白日。〜義母は私が夫を殺す理由なんてどこにもないわ! と叫んで抗議したけど、もう証拠は揃ってます〜
「なんて無茶をするんだ、君は!!」「だって、こうでもしないと間に合わないじゃないですか!」
涙目で抗議するエマを見下ろしたロビンの視線が、無惨に切り落とされた髪で止まる。
その瞬間、青い瞳が大きく揺れた。泣きそうに歪んだ表情は、やがて底知れない怒りへと沈んでいく。
(ロビンさんが、髪を見てる…)
美しい空のような瞳が潤むのを見たエマは、たまらなくなって、微笑んだ。
ロビンはその笑顔を見て、唇を固く一文字に結び、奥歯を噛み締めた。 そして、その行き場のない感情を強引に呑み込むように小さく息を吐き、何も言わず、震える手でエマの短い髪をそっと撫でる。 そのまま、彼女が本当にここにいることを確かめるように、強く胸へ抱き寄せて目を閉じた。
「全く……。本当に、無事でよかった……っ」
心からの安堵に満ちたロビンの掠れた声を聞き、エマは彼の広い胸に顔を埋めた。
二人が無事に床へ降り立った瞬間、シャキンッ! と鋭い剣を抜く音が響いた。
「動くな」
カエサルだった。
彼は純白の海軍礼服を翻し、いつの間にかエスターの背後へ回り込むと、その白刃を彼女の首筋にピタリと突きつけていたのだ。
「きゃあっ!?」
「カ、カエサル様!? 何をなさっているの!」
「黙れ、ヘラ・ウィンター。私をコケにした代償は高くつくぞ」
エマの姿を見たカエサルの海色の瞳には、冷酷な怒りが満ちていた。
「な、何事じゃ! 一体どうしたというのだ!」
国王が玉座から立ち上がり、混乱の極みにある広間へ声を張り上げた。
「国王陛下! どうか、これをご覧になってください!」
エマがロビンに支えてもらいながら叫ぶ。
髪は無惨に短く切られ、顔は煤で汚れ、ドレスは引きちぎられ、指先から血が滴り落ちていても、瞳は真っ直ぐに前を見据え、光り輝いている。
エマが突き出したのは、埃まみれの古びた本と、奇妙な薬品が入ったいくつかの瓶だった。
その本を見た王宮の老魔術師が、震える手でそれをひったくるように受け取った。
「こ、これは……! 間違いない、数年前に盗み出された、失われた古代の禁書!! 一体どこにこれが!?」
「ウィンター家のタウンハウスの、隠し地下室から出てきました!」
玉座の前に突き出された禁書と怪しげな瓶の数々を見て、ヘラは驚愕に目を見開き、一歩後ずさった。
その場にいた全員が目を見開き、ヘラと禁書を交互に見た。
決定的な証拠が、ついに白日の下に晒された瞬間だった。
だが、すぐにヘラは扇で口元を隠して金切り声を上げた。
「しょ、証拠がないわ! その薄汚い本が、私たちのものだという証拠がどこにあるの! この小娘が勝手に持ち込んだ捏造よ!」
「捏造ではありません!」
エマは力強く言い返した。彼女の瞳には微塵の迷いもない。
「私はつい先ほどまで、タウンハウスの半地下にある牢屋に縛り付けられて閉じ込められていました! あそこには、外したばかりの私の重い足枷がまだ置いてあるはずです。そしてあの地下牢は、強固な魔法錠がかかっており、領主とその家族しか開けられない特殊な鍵が必要なんです!」
ヘラが手元のバッグを隠そうとしたのを、エマは見逃さなかった。
エマはヘラを真っ直ぐに指差した。
「今、あなたが持っているんじゃないの!?」
「っ……!」
「失礼」
瞬間、横にいたカエサルが容赦なくそれをひったくった。
中身を床にぶちまけると、化粧品などに混じって、青い宝石がほのかに光る古びた鍵が一つ転がり出た。
「……これのようですね」
カエサルが冷たい目で鍵を拾い上げ、国王の前へ掲げる。
「これで地下牢へ入ってください! そこに私の足枷があります!」
「……っ! そ、それの何が証拠なのよ! 足枷があったからといって、その禍々しい本が地下から出てきた証明にはならないでしょう!」
ヘラは血走った目で必死に食い下がる。
「部屋に、翼の生えた魔獣の死骸が置いてあります!」
エマの告発に、広間がどよめいた。
「その禁書に、『空へ放逐する呪い』を作る方法として、翼のついた魔獣の血液が必要だと書いてありました! 調合に使った他の材料も、道具も、すべてあの隠し部屋に残っているはずです!」
決定的な物証を突きつけられ、ヘラの顔からサァッと血の気が引いた。
だが、彼女はまだ諦めない。血走った目で国王を見上げ、狂ったように叫んだ。
「で、でたらめよ! 仮にその部屋が私のものだとしても、私が夫を殺す理由なんてどこにもないわ! 私は夫を愛していたのよ! この小娘の作り話ですわ!」
その時だった。
「動機なら! ここにありますよっ……!」
バァァーンッ!!!
大広間の重厚な扉が開いた。
――そこに立っていたのは、息を切らし、腕いっぱいに分厚い帳簿を抱えたシリルだった。




