ゴミ袋山、誇りを背負って
朝のキッチン。
「夏美、バイトに行くついでに、ゴミ出ししといて〜」
「はーい」
夏美は玄関に置かれたパンパンに膨らんだゴミ袋を持ち上げる。
「うわっ、今日のゴミ袋、ずっしり重たい…」
ズシリと手に食い込む重み。でも夏美は慣れた様子で靴を履き、ゴミ袋を片手に家を出た。
ゴミ集積所に到着し、袋を置こうとしたそのとき——
「ふぬぅっ……!」
「えっ?」
重たいはずのゴミ袋が、ぐらりと動いた。
「うおっ、なんか…動いた?」
目を疑った瞬間、モゾモゾと袋が起き上がる。むくっと立ち上がったその姿は、まるで——
「お、お相撲さん!?」
袋の形をした巨大なお相撲取りが、ドスンと仁王立ちしていた。
体にはラップのようなビニール、胴体には「可燃」と書かれた文字。まわしのようなビニールひもを腰に巻き、堂々たる風格。
「拙者、“ゴミ袋山”と申す!」
「ご、ゴミ袋山…?」
「日々、台所の残り物、紙くず、壊れたモノ、ありとあらゆる“不要”と闘い、それらをまとめて一手に背負う、誇り高き袋力士なり!」
「す、すごい……」
夏美は圧倒されていた。彼の肩には卵の殻や割り箸、使い終えたティッシュの魂がのっかっている(ような気がする)。
「我ら袋力士は、見た目は地味でも縁の下の力持ち。人々が清潔で快適に暮らせるよう、影で支える者たちよ!」
「うん……そうだよね。ありがとう、ゴミ袋山さん」
ぺこりと頭を下げる夏美。
するとゴミ袋山は、腕を組んでうなずいた。
「礼に及ばぬ。だがその一言、胸に響いたぞ。褒められると、やっぱり照れるのぅ」
彼はドスンと地面に座り直し、ふたたび袋の形に戻っていく。
まるで何事もなかったかのように、静かにそこに置かれた一つのゴミ袋。
「じゃあ、行ってきまーす!」
夏美が手を振って去ると、その背中に向かって、袋がほんの少し揺れたように見えた。
——ドスコイッ。
風の中に、小さな掛け声が聞こえた気がした。
日々の暮らしの中で、当たり前のように使っているゴミ袋。
だけど、どんな“いらないもの”も黙って受け止め、町をきれいに保つ大切な存在です。
この物語を読んだあと、もしもゴミ袋を手に取るときに「ありがとう」と心の中で声をかけてくれたら…ゴミ袋山はきっと、ちょっとだけ嬉しそうに膨らむかも…




