シュワシュワの国の招待状
突然の夕立に降られて、ずぶ濡れで帰ってきた夏美。
靴下の中までぐっしょりで、髪は頬に張りついている。
「ふぅ〜…もう、びしょびしょだよ」
でも、どこか吹っ切れたように笑った。
そんな日もある。だからこそ――
「今日は、お風呂に入浴剤入れちゃおっと」
お気に入りの引き出しを開けると、丸くてやさしい色合いの入浴剤が目に入る。
ラベンダーとミルクの香りがほんのり漂う、バスボムタイプのそれを手に取り、湯船へポトン。
チャポンッ
シュワシュワ〜〜…ぷくぷく…
湯面に細かな泡が立ちのぼり、白くふわっとした香りが空間に広がっていく。
湯気と香りに包まれて、夏美はそっと目を閉じた。
「はぁ〜……生き返る〜……」
あたたかいお湯にゆっくりと体を沈めていくと、まぶたがとろんと重くなって――
気がつけば、夏美はすうっと夢の中へと落ちていった。
* * *
…そこは、シュワシュワの音に包まれた、ふしぎな世界。
空は淡い水色、雲はまるで綿あめのような泡。
地面も、建物も、木も草も、全部ふわふわの泡でできている。
目の前に広がるのは、シュワシュワの国。
「えっ…ここ、どこ……?」
夏美が戸惑っていると、
ぷくん、と小さな泡が目の前で弾けて、ぽわっと現れたのは、泡の精たち。
直径10センチほどの、ころころとした姿。
きらきらと光るまなざしと、ふわふわな声で、夏美に呼びかける。
「夏美ちゃん、ようこそシュワシュワの国へ〜!」
「疲れてるでしょ?ちょっと癒されに来てくれたんだね」
「この国は、入浴剤が魔法を使って開く、特別な場所なんだよ」
泡の精たちは、夏美の手をとって、トランポリンのような泡の丘へと誘った。
ぽよん、ぽよん、と跳ねながら歩くと、まるで体が軽くなっていくみたい。
途中で見えたのは、泡の木のトンネル。
透き通った泡の葉っぱが、シャボン玉のようにキラキラ揺れている。
その下をくぐると、不思議なことに――
「わっ!…仕事のストレス、ちょっと消えた気がする…!」
「うんうん、それは“泡のデトックスツリー”の力だよ」
「モヤモヤした気持ちは、私たちがしゅわ〜っと吸い取るの」
どこかでシュワシュワの滝が流れていて、精たちが肩まで泡に浸かって笑っていた。
「この“シュワの湯”もいいよ〜。夏美ちゃんもどうぞ!」
夏美はすすめられるまま、丸い泡の湯に入ると――
全身がふわっと包まれて、心の奥の疲れがすーっとほどけていった。
「なんだろう…懐かしいような、ほっとする感じ…」
「お母さんに頭をなでられたときみたいな…」
「それは“やさしさの泡”だよ。
疲れすぎて泣きたい夜に、こっそり出てくる泡なの」
泡の精たちは、夏美のまわりをくるくると舞いながら、
時に泡の花を咲かせ、時に小さな歌を歌ってくれる。
♪ ぷくぷく シュワシュワ
あなたの心に やさしさ満ちて
明日も笑っていけるように
ほぐれてゆこう しずかに ふんわりと ♪
歌を聞きながら、夏美は泡のベンチに座って、空を見上げた。
まるでシャボン玉の世界に来たみたい。すべてが光っている。
「…帰りたくないな」
「だいじょうぶ。また会えるよ」
「シュワシュワの国は、お風呂に入って心がほぐれたとき、また扉が開くの」
「だから、今日みたいに疲れたときは、入浴剤を使ってね」
泡の精たちは、手を振って見送ってくれた。
「また来てね、夏美ちゃーん!」
* * *
ぱちん。
湯船のなかで、ひとつ泡が弾けた音で目を覚ました。
夢だったのか――でも、どこかで本当にいた気がする。あの泡の精たち。
お湯はもうぬるくなっていたけれど、
夏美の心はぽかぽかに温まっていた。
「…うん、また行こう。あの国に」
夏美はバスタオルにくるまりながら、そっと笑った。
お風呂あがりの夜風が、やさしく頬をなでていった。
お風呂に入ると、ただ体が温まるだけじゃなくて、心もじんわりゆるんでいきますよね。
このお話は、そんな“お風呂の魔法”を信じる夏美の、とある夢のひととき。
もしかしたら、あなたの入浴剤にも、シュワシュワの国への扉が隠れているかもしれません。




