ピロピロピーの守護神
夏美が棚の整理をしようと歩き出し、自動ドアの前を通ったとき――
ピロピロピー。
「あ、センサー…」
いつものように鳴った音。だけど、今日はふと足を止めて、夏美は入口の上を見上げた。
そこには、誰の目にも見えないけれど、小さなセンサーの精霊がふわりと浮かんでいた。
すっと背筋を伸ばして、きらりと光る瞳が、夏美を見つめる。
「こんにちは、夏美さん」
「わっ…しゃべった?」
「もちろん。私はピロピロピー。入口センサーの守護精霊。
いつもこのお店を見守ってるの」
「そうだったんだ…!」
「私たちセンサーは、ただ音を鳴らすだけじゃないのよ。
誰が来たのか、どんな表情をしてるか、全部感じ取って、心を込めて鳴らしてるの」
「えっ、じゃあ…お客さんが来たときに鳴る“ピロピロピー”にも気持ちがあるの?」
「そうよ。『いらっしゃいませ、ようこそ』の気持ちを込めて。
そして、お客さんが帰るときは、『ありがとうございました、また来てくださいね』って」
「でも…言葉はないのに、どうやって?」
「音よ。私たちの声は“ピロピロピー”しか出せないけれど、
毎回ちょっとずつ、気持ちを変えて鳴らしているの。
元気そうなお客さんには、弾むように。
ちょっと疲れてそうな人には、やさしく包むように」
夏美は驚いて、センサーの下でぴょんと跳ねてみる。
ピロピロピー。
さっきより少し高く、明るく響いた。
「ほんとだ、さっきと違う…!」
センサーの精霊は、うれしそうに頷いた。
「私たちは、コンビニの小さな守護神。
入口でお迎えし、お見送りし、
一日じゅう、人の流れと心の動きを見つめてるの」
「じゃあ…夏美ちゃん、今日も元気ねって見てくれてる?」
「もちろん。朝、あなたが来たときも、帰るときも。
いつもそっと、見守ってるわ」
そのとき、自動ドアが開いて、新しいお客さんが入ってきた。
ピロピロピー。
音が鳴った。その響きは、夏美にはこう聞こえた。
「いらっしゃいませ。どうぞ、ゆっくりしていってくださいね」
夏美は微笑んだ。
ピロピロピーさんは、やっぱり今日も、コンビニの守護神だ。
何気なく鳴るセンサーの音も、誰かを迎え、誰かを見送る“心”が宿っているとしたら…。
コンビニという日常の中に、やさしく寄り添う存在がいると思うと、少しだけ世界があたたかく見える気がします。
今日も「ピロピロピー」が、そっと誰かを見守っているかもです…




